「うわ…降ってきちまったな」
怪しげな雲があるのはわかっていたが…高をくくりすぎたらしい。
雨が降ってきてしまう。
「リコ、走るぞ」
「あ…うん!」
公園で待ち合わせしたはいいが…ここに、屋根はない。
どこかで雨宿りをしなくては、とファズはリコに手を差し出す。
リコはドキドキしながら手を差し出した。
鮮やかなオレンジの髪に、赤みがかった茶色の瞳…ファズは女装をしても違和感がないようなカワイイ顔立ちなのだが、その手は大きく、温かい。
ファズは見た目としては『カワイイ人』なのかもしれないが、リコの中では『優しくてカッコイイ人』で…『トクベツな人』だった。
「あ」
ファズは突如手を引っ込めた。
行き場を失ったリコの手が宙に浮く。
「え…」
(あたし、なんかした!?)
手が汚れていただろうか、とリコは自分の両手を見下ろす。
…別段、自分の手が汚れているようには見えなかった。
どうしよう、なんでだろう…違う意味でドキドキしてきたリコに、ファズはバサリと何かを被せた。
「…ふぇ?」
やや間の抜けたリコの声に、ファズがちょっとばかり笑う。
「傘代わりにはならねぇかもしれねぇけど、ちょっとはマシだろ?」
上着をリコへ被せたファズは、再び手のひらを差し出す。
「行こ」
「…うん」
今度は、ファズとリコの手が重なった。
ファズがきゅ、とリコの手を握る。
――その手の温もりと、上着を貸してくれた優しさに…リコはまたファズに想いを重ねた。