――ああ、雨の音がする。
ファイは遠く、そんなことを思った。
しとしとと、葉の濡れる音。
大地に染み入る音。
――水面に、雫の零れる音。
雪よりも、明確に。
――落ちる、空からの雫。
「…神子」
「――………」
ファイは、ゆっくりと目を覚ました。
――瞳に映る、鳶色の瞳。
「…こんなところで休まれては、体調を崩されます」
オールバックにきっちりとまとめられた髪は、焦げ茶色。
見慣れた男の名を、ファイは呟く。
「――トーマ」
「? はい」
瞬くトーマに、ファイは続けた。
「腹減った」
…がっくり、トーマは項垂れる。
次の瞬間、くしゃみをしたファイに「あぁっ!」と自らの上着を差し出した。