「トシ」
暑い時でも、行かねばならない時がある。
呼びかけにトシ…俊一は振り返った。
ひらひらと手を振るのは、帽子を目深に被った少女。
「おー、どっか行くのか」
「プール」
授業の一環だ。夏休みの、プール補習。
…無料で水遊びができる、と好きな人にはナカナカ楽しい補習だったりする。
ちなみに少女…李花は補習の必要はないのだが、水遊びがしたくて…という思いが強い。
「トシは?」
「部活」
「うはー…」
暑いのに大変だねぇ、と李花は肩をすくめた。俊一は陸上部だ。
「でも、部活終わったらプールで遊べるしな」
「へぇ」
それは楽しみだね、と李花は笑った。俊一もつられて笑う。
「李花」
「ん?」
呼びかけに李花は首を傾げた。
「別に李花は補習の必要はないんだろ?」
俊一の言葉に「うん」と首を縦に振る。
「部長に言っとくから、一緒に遊ばね?」
「…補習参加して遊んだら疲れるよ」
「じゃあ、待ってりゃいい」
俊一の言葉に李花は瞬いた。くっ、と笑う。
「じゃ、日陰でトシ待ちしてる」
李花の言葉に俊一は数度瞬いた。
「おし」
気の合う友人と遊ぶことを選択した李花に、俊一もまた、笑顔を見せた。