夏の日差しも、恐れない。
望めば、彼らの周りには常に風が巡る。
ループルは川に足を浸した。
…冷たい。
心地よさにひとつ息を吐き出す。
「ループル」
「はい?」
呼びかけにループルは視線を向けた。
そこに立つのは誰か、わかっている。
ループルの師。…唯一。スールだ。
「…どうした、のぼせたか」
「のぼせた…のでしょうか」
気持ち良さそうだと思って、水に足を浸した。
常に黒い服を纏っているスールは、暑そうな素振りなど爪の先ほども見せずにループルの頬に触れる。
「――大丈夫か」
熱はないようだな、とスールは淡々と言った。
…淡々としていても、スールがループルを案じてくれていることは、わかった。
「――…」
ループルはスールを見上げる。
望めば常に風が巡る。
夏の日差しを、突然の雷雨を、ループルは恐れない。恐れたりしない。
…ただ。
「――大丈夫、です」
…スールを失うことだけは、恐い。
ループルはスールの手に、自らの手を重ねる。
深い藍色の瞳を、スールは細めた。