「あ、エリナ」
呼びかけにエリナは振り返った。
エリナに呼びかけたのは、同僚。
「…ディンセント…」
「なんだ」と低く問いかけると「そんな訝しげな顔しなくても…」とイリスは腕を組む。
「…」
やや青みがかった瞳のエリナ。
目つきが鋭く、イリスの言う『訝しげな顔』をすると結構目つきが悪くなるようなのだが…イリスは一度も、エリナを怖がったことはない。
「にゃんこ、どっかで見なかった?」
想定外の質問にエリナは瞬いた。
「――猫?」
「そう、猫」
イリスはエリナの言葉を繰り返す。
(なんで猫…?)
密かに猫でも飼っていたのか、とエリナは考えたが「見てない」と応じた。
「見てないかー」
まぁ、簡単には見つからないよなぁ、とちょっとばかりしょんぼりしたような様子にエリナは「猫がいなくなったのか」と問いかける。
「ううん」
「?」
否定された答えにエリナはまた、訝しげな表情になってしまう。
(いなくなっていない猫を探す? …なんだそれは)
「にゃんこはね、夏場の涼しい所をよく知ってるんだって」
「冬場の暖かい場所もね」と続いた答え。
エリナは何度か瞬きながらもドコかで「…ん?」と思った。
その予感は、的中する。
「毎日毎日暑いんじゃオチオチ昼寝もできないわ。あたしは涼しい場所で昼寝をしたいの」
「……」
また、昼寝ネタか。
力強く拳を握ったイリスを見つめる。
「じゃ、もしにゃんこ見つけたら教えてね」
「…ああ」
ぼんやりイリスを見ていたら、顔見知りには全員に言うのかまた話しかけていた。
(猫の昼寝場所を奪うなよ…)
エリナはこっそり、万が一自分が猫が昼寝しているのを見つけても報告すまい、と思った。