ファイは夕日に手を伸ばした。
…別段、欲したわけではなかったが。
「すごい色、だな」
ファイの言葉にトーマは「そうですね」と応じる。
応じて、護衛としてファイに付き合っていたトーマはポソポソと言った。
「…神子、そろそろ戻りませんか…?」
神殿を抜け出し…ほぼ一日。
ファイはその言葉にトーマへと視線を向ける。
やや苦笑じみた表情。
その表情の意味がわからないまま、トーマは数度瞬いてファイを見つめる。
白銀の髪は夕日に染まり――元が白いからか、鮮やかなほどの紅だった。
夕日の色も美しいが…その夕日に染まったファイの髪もまた、美しいと思った。
――トーマが守りたいと思う少女自身を、美しいと思った。
「今日も一日よく遊んだし…帰るか」
トーマは『帰る』というファイの言葉にハッとする。
見惚れていた自分に気づき、顔が上気したのがわかった。
ファイに気づかれないように、と願いながら「はいっ」と応じる。
応じた声は若干ひっくり返っていた。
「…トーマ、顔赤いぞ?」
「ぅえ?!」
更に妙な声を上げてしまい、トーマはベシベシと自分の頬を叩く。
チラリとファイを見て、告げた。
「――神子も、赤いですよ」
「? そうか?」
ファイは自分の手を見下ろす。「あぁ」と吐息のような声を漏らした。
「夕日に染まったのか」
ファイの独り言にトーマは瞬いた。
――トーマの上気した顔がバレた…というわけではなかったらしい。
どこかで安堵しながら、トーマはファイに「行きましょう」と声をかけた。
歩き出して、立ち止まって…再び、夕日へと視線を向ける。
トーマもまた立ち止まって、ファイを見た。
夕日に染まる頬。
紅く染まった髪。――染まらない、紫の瞳。
…きれいだな、と思った。