「スイ」
呼ぶ声に、スイは振り返った。
ダイスキなコエ。…ダイスキなリクの声だったから。
「そろそろ行くって」
スイはこっくりと頷く。
瞑想…でもないが、スイは時折仲間から離れて一人で過ごすことがあった。
そんなスイを見つけだすのは、大抵リクだ。
というか、リクが呼びかけるとスイは姿を現す…というほうが正しいかもしれない。
「スイ、見て」
リクは夕日を示す。
「おいしそうな色だね」
「…」
おいしそう、の意味はわかるが…夕日自体をおいしそうとは思わなかったスイは数度瞬いた。
視線だけでリクに問いかけるが、リクはスイの視線だけの問いかけには気付かなかったらしい。突然スイの髪へ手を伸ばす。
「スイの髪も同じ色だ。…きれいだね」
白い髪は夕日に染まって、オレンジ色になっていた。
リクはスイの髪を指で梳いて、少しだけ笑う。
そんなリクにスイは数度瞬いた。
「…おいしそう?」
スイの切り返しに今度はリクが瞬く。「ぷはっ」と吹き出した。
うくくっ…としばらく苦しげにしていたが、最終的には声にして笑う。
「スイは食べれないな」
リクの言葉にスイは瞬く。
「…必要なら、…あげるよ?」
いつも眠そうな…けれど美しい、翡翠のような淡い緑色の瞳。
リクはちょっとばかり首を傾げる。
スイは続けた。
「…リクになら、あげる」
スイの言葉にリクは瞬く。
スイはほんの少しだけ笑った。