空が高く、遠くなった。
斐はなんとなく、腕を伸ばしてみる。
「斐」
斐の名を呼ぶのは…多分もう、彼くらいだ。
「どうした。…肩の調子でも悪いか」
「全然。なんとなく、手を伸ばしてるだけ」
同じ年頃に見える――けれど、斐よりもずっと永い時間を生きている少年。
――ちょっとばかり、斐に対して心配性すぎる気がある。
「そろそろ紅葉の時期になる?」
「…かもな」
海辺にあるのは潮風にも耐えうる常緑植物ばかりで、葉の色を変え、葉の落ちる落葉植物はない。
少なくとも、この海辺には。
「ウチの裏山に、立派な紅葉があってね」
斐はその場に寝転んだ。
空を見上げ、青と白とを眺め…瞳を閉じる。
「…今頃、赤くなってるのかなぁ…」
帰れない場所の思い出を語る斐に竜海は目を細めた。
――瞳に宿るのは、少し悲しげな光。
「竜海」
斐は目を開いて、竜海を見た。彼の所為ではないのに、悲しげな顔をする。
「そんな顔しないでよ」と苦笑し、斐は竜海に問いかけた。
「竜海はなんか、秋の思い出とかある?」
「…」
瞬く竜海に、斐は繰り返した。
「竜海の話が、聞きたいな」