十一月。
海沿いの街も、吐く息が白くなるほど寒い時もある。
「……さむっ」
「気づけば十一月だもんね」
バス通学の美海と自転車通学の樹。
本当なら帰る方向は違うのだが…少しでも、一緒にいたい樹の男心だったりする。
「あ、吐く息白いよ」
はぁ、と美海は息を吐く。
吐息の行方を追うような視線に、樹もまた息を吐いてみる。
「…寒いはずだ」
「あはは。そうだね」
そろそろ手袋してもいいかなー、と美海は指先に吐息を吹きかける。
「これ」
樹が上着のポケットから出した物に美海は「え?」と瞬いた。
「貸すよ」
自転車通学の樹はもう、手袋をしていた。
吹きつける風が結構イタイこともあったから。
「や…でも、」
すぐにバス停だし、と言うような美海に樹は退かない。
「ちょっとは彼氏っぽいことさせて」
「……」
美海は頬をほんのりと赤くした。
…言った樹は、しばらくして顔を真っ赤にした。
「――とか言ってみたりしてー…?」
恥ずかしさを、ちょっとフザけて振り払おうとしてみる。
あまり効果はなかったが。
美海は少し笑顔を見せる。
「…借りても、いい?」
美海の笑顔と言葉に、樹は瞬いた。
言葉をちゃんと理解して、笑う。
「うん、使って」
差し出した手袋を美海は手にはめた。
「大きい」と感心するような様子に、樹はまた笑顔を浮かべた。