空を見上げる後ろ姿に声をかけた。
「…李花」
呼びかけに応じるまで、しばらくの間がある。
一、二、三…数を数えたかのようにして、ぼんやりしていたように見えた李花が振り返った。
呼びかける声で、おそらく『誰なのか』は判断が出来ていたのだろう。
驚いたような様子はなく「よっちゃん」と、嘉之を呼んだ。
「どうした。…ぼんやりして」
基本的に『元気』が基本装備の李花。
空を見上げてぼんやり…のんびり、というのは少し珍しい感じがする。
嘉之の内心など気づかないまま李花は呑気に応じた。
「吐く息が白い、って気づいてさ」
言って、息を吐き出す。
ほわ…と広がって、消える。
「寒いわけだなぁ、って」
「……」
李花に倣うようにして、嘉之もまた空を見上げた。
一つ、息を吐き出す。
吐息が白く染まることに今、気づいた。
「秋も終わっちゃうカンジ?」
問いかける李花に「そうだな」と嘉之は応じる。
「…そろそろ行かないと、遅れるぞ」
嘉之の言葉に「そだね」と李花はほんの少しだけ笑う。
どちらからともなく、並んで歩きだした。