TOIKI

「…っくしゅっ」
 くしゃみをした蘭に刀流は視線を向けた。
「大丈夫か?」
 風邪か? と案じる声に「ちょっと寒いだけ」と蘭は応じる。
 吐く息が白い。
 もう、マフラーとか手袋とか…冬支度を始めてしまってもいいかもしれない。
 蘭はそう思いながらも一人頷く。
 ふと、刀流を見た。
「――刀流は…」
「ん?」
 人懐っこそうな双眸を細め、刀流は蘭を見つめる。
「寒くはない?」
「――あぁ、」
 長袖Tシャツ一枚の刀流は制服姿の蘭より薄着に見えた。
「…オレは、『ヒト』ではないから…」
 寒さも感じないな、と応じる。
 ――彼が息を吐いても、白くはならなかった。
 蘭は思わず、刀流へと触れる。
「…蘭?」
 突然手を掴まれ、刀流は少しばかり意外な声を上げた。
 …蘭のこんな行動は珍しい、と思って。
 刀流が更に言葉を続けるより前に、蘭が口を開く。
「――温かいよ」
 触れた指先に、力を込めた。
 刀流を見上げ、蘭は言葉を繰り返す。
「刀流は、温かい」
 吐く息が白く染まることはない刀流は瞬いた。
 指先を見つめ、蘭を見つめる。
 真剣な声音と、眼差しと。
 刀流は瞬いて…笑みを浮かべた。
 自らも、蘭の指先に力を込める。
「…そう、か」

 欲した少女。
 長く長く求めた、魂。
「――そうか…」
 刀流は呟いて、抱き寄せた。
 無い筈の体温温もり――温かい、と言ってくれた蘭に、想いを込めて。
 …温もりが、伝わるようにと。

TO−RUモドル