TOIKI

「寒い…」
吐息いきも白いしな」
「眠い…」
「…遭難か?」
 エリナのツッコミに「ここで遭難ってある意味スゴイよねー」とイリスが応じる。
 寒いとは言え、極寒というほどではない。
 より正確に言うならば「肌寒い」くらいだろうか。
 職場である神殿の一角…書類整理をやりながらの呟きである。
 石造りの為、冷え切ってしまうとなかなか温度が上がらない。

「あたしの体が休息を求めている…!!」
「…」
 イリスの趣味が昼寝であることを知っているエリナは「またか」と口の中だけで呟いた。
「寝たーい寝たーい…眠ーい…」
「シャッキリしろ」
「仮眠させてくれたらいくらでも」
「…」
 エリナは我知らず息を吐き出した。
 その吐息も、白く染まる。

「早く部屋暖まんないかなー」
「…暖まったらお前が余計に眠くなるだろう」
 書類整理を押し付けるつもりか、と言外にエリナはイリスを責める。
「寒くても暖かくてもそんなに変わらんと思うよ?」
「…」
 続いた言葉に「それはそれでどうなのか」とエリナはひっそりと思った。

名見者モドル