「そーやん、今朝氷張ってたの気付いた?」
問いかけに、長身の穂波はゆるゆると瞬いた。
席に着いて、座っている穂波と話しかけるチビっこの潤の視線の高さは、あまり変わりがない。
「…いや」
小さく否定した穂波に「ウチの方が寒いのかな?」と潤は呟く。
潤は電車通学で、穂波は徒歩通学だ。
穂波の方が遅い登校でもしかしたら、凍っていた氷も融けてしまったのかもしれない。
「とりあえず、チャリで割ってみた」
潤はそう、穂波に報告する。
その笑顔は「面白かった!」という思いを全面に出していた。
「…そう、か」
言葉だけ聞けば投げやりにも思えるが、穂波のその表情は――いつも眠そうなのだが――僅かに、笑みを浮かべている。
遊びに興じる子犬のようだ、と頭の隅で思いつつ穂波は「よかったな」とも呟いた。