『――斗織』
…呼ばれた気がした。
斗織はふと、目を開く。
「気の所為か」と思い、再び目を閉じる。
春ののどかな空気は柔らかく、今日は休日で…急いで行動しなければならない理由はない。
――再び呼ばれた気がして、斗織は目を閉じたまま…半分まどろんだまま、声にすることなくかたどった。
『聞こえている』と。
何故か…脳裏に、自分とよく似た顔の存在を思いながら。
***
『聞こえている』
…そう、答えがあった気がした。
(斗織…もう起きた頃かな)
案外寝てたりするだろうか。
…そういえば、一緒に過ごした時、平日はきっちり起きて、休日はのんびり起きていたような気がする。
そんなことを思いながら真斗は瞬いた。
春めいた窓の外を眺めて、『斗織』と…声なく呼びかける。
…会いに行くから、と瞳を閉じた。
『会いたい』と…祈るように。