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④アイツを殴れ!!
<なぜか、変装>

 妙に、授業が長く感じた。
 ――まぁ、授業時間が短く感じたこと、数えられるくらいしかないけど。
 我慢しろ、と言われて――放課後。

「………これ………」
 昨日の眞清の言葉に首を傾げながらも服を貸してくれた涼さん。
 ――眞清が受け取った服(の入った紙袋)は、そのままあたしに手渡された。
「――あたしが着るのか?」
「克己以外の誰が着るんです」
「…眞清?」
「着ません!!」
 ――きっぱり言われてしまった…。
 だけど…
「あたしが日本コッチにいた時はよく着てたじゃん…」
 ボソリと思わず漏らした言葉に生徒会本部にいた人達の動きが止まった、のがわかった。
 会長はパソコンに入力する手の動きが止まり。
 副会長は椅子を引いたまま座らず。
 涼さんは目を丸くして視線を眞清に固定させた。
「む・か・し! の話です! それに、あの格好だって無理矢理…!」
 珍しく口調を荒げた(…けど、敬語はそのまま…)の眞清を見る。

 ――眞清曰く。
 小さいときは眞清のお母さんの性格(あたし以上の可愛いモノ好き)のせいで、女の子用の服を着せられていた…らしい。
 …それがまた、妙に似合って…。
(そのせいであたし、眞清のこと女の子だと思ってたもんな…)
 だからコッチに帰ってきて『ますみちゃん』が『眞清オトコ』だったことでメチャクチャ動揺した。
 …髪の色も明るくて人形みたいだったからどっちかというとショックだった。
 あんなに可愛い子がオトコだったとは!!
 ――って感じで…。

「克己…いい加減にしてください…」
 眞清は過去(?)を語るあたしの口を押さえて低く言った。
「殴りに行くんですよね? そんなこと話してないで、さっさとコレに着替えて! 変装しちゃってください!!」
『あ、変装用で借りたのか』
 そうですよ、と眞清はあたしの口から手を外しつつ言った。
 …モゴモゴしてたのによくわかったな。
「準備っていうのはコレのことですよ。コレ…カツラと帽子も借りましたから」
 眞清の持つカツラを見て思わず「ながっ!!」と半ば叫んだ。
 腰…とまではいかないが。背中の半分は覆われるんじゃないかという黒いカツラが手渡される。
「ここまで変装すれば克己だと思う人もいないでしょう」
「…そうだな…」
 着替えてこい、というような視線に「隣で着替えてくる…」と答えた。

 資料室の戸を閉める。
 奥に移動して、机に涼さんが貸してくれた服を出した。
 …涼さんの普段の格好は。
 ピンクとかベージュ、クリーム色…優しい色合いの服が多い。
 レースがヒラヒラ…とかはないんだけど、服の作りがどことなく女の子らしいモノを着ている。
 …今回貸してくれてのは、少し紫がかった淡い青色の服。よく見ると、細かいチェック柄だった。スクエアネックで少し襟口が広い。
 それから…。
「スカート…」
 ――久々だ。
 グレイ…シルバーグレイといったほうがいいかな?
 明るい灰色のロングスカート。
 中学の制服…も適当に理由をつけて殆ど着なかったから、最後にスカート穿いたのいつだっけ? という状態。
 私服じゃ全然穿かないし…。
(涼さんの服があたしに似合うわけないだろ…。いっそ、眞清が着たほうがいいんじゃないか…?)
 スゴク拒否されそう、とか思いながら着替えた。
 仕上げに、眞清に渡されたカツラと帽子を被る。
 …鏡がないからわからないが…
(オカマみたいになってんじゃないか…?)
 重い気持ちのまま、あたしは資料室を後にした。

 一度深呼吸してから「ども」と学生会室に入った――ら。
「………」
 眞清が、黒髪じゃなくなっていた。
「――あぁ、克己」
「…カツラか?」
 あたしは問いかけながら、眞清の髪に触れた。
 麦の穂を思わせる色。
 本当の色よりは濃いけど、いつもよりは本当の眞清に近い髪の色。
「いいえ。染めました」
 眞清は言いながら目を細める。
 指に、色がついた。
 あたしはコッチが眞清の生まれつき本来の姿だと…本来の姿に近いと、知っていた。普段、髪を黒く染めていることを…知っていた。
 眞清の目の色はもともと結構明るい…淡い色ともいえそうな色だ。
 よく見ると、眞清の目の色は琥珀を思わせる明るい色だ。

「なんか、久々に見るな。コッチのお前」
「髪が傷みそうですよ」
 染めてるのに、また染めたので。
「結構キレイに染めたな」
「便利なものがあるんですよね。協力してもらいました」
 染め色体験、と書かれた箱を眞清はあたしに手渡した。
 箱の説明を見ながら「ふーん。すぐ落とせるんだ」と言いながら、眞清をじっと見た。
 普段はどっちかというとカッチリした服を着ている眞清だけど、 今は十字架と羽みたいな黒い柄の白いTシャツを着ている。…地味派手、というやつか…?
 とりあえず、普段着ているトコロを見ない服装だ。
 一呼吸置いて箱を机に置く。
「――さて。じゃあ、行くか!」
 タジマに帰られたらお終いだ。せっかく変装した意味もなくなる。
「あ、涼さん。悪いけど借りるね」
 一度振り返って言ってから、学生会室を後にした。

 
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