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④アイツを殴れ!!
<そして、月曜日>

 ――月曜日の朝。
「おっはよーっ!!!」
 益美ちゃんは、元気だ。…いや、あたしも元気だけど。
 なんというか、ハイテンション?
 …いや、益美ちゃんの場合いつのもことか…。
「オハヨ」
「聞いて聞いて!」
「おぅ」
 益美ちゃんは何かしら新しいネタが入るとすぐに教えてくれる。
「この間の金曜日」
 …その言葉にギクリとした。
 思わず視線を窓の外へむける。
「――うん、金曜日?」
 どんな情報が出てくるのか、ちょっとばかし緊張しつつ続きを促した。
 …本を読んでるように見える眞清だが、コッチの話を聞いていると思う。
「お姉ちゃんのクラスに見たことない人がえぇと…クラスの人を呼んだんだって」
「へぇ?」
 ――うわ、結構な確率であたしと眞清のことじゃないか…?
「で、その人お姉ちゃんの隣の席らしいんだけど。しばらく教室で報道部の仕事をしてたらね、戻ってきたんだって」
「うん」
 …あ、アイツの隣の席の人、益美ちゃんの姉ちゃんだったんだ…。
「『ちょっといそいそして行ったのに、戻ってきたときは青ざめてたから何があったのかしら』って。で、その呼び出した人がね…」
 益美ちゃんは口元に指を当てた。
 いつもの様子から考えると、益美ちゃんがこうするときが大体益美ちゃんが一番言いたい情報コトのようだ。
「お姉ちゃんが見たことがない、カッコイイ人だったんだって!」
「………」
 …カッコイイヒト?
「お姉ちゃんがよく知らないっていうと1年かなーって」
 ――益美ちゃん曰く。
 益美ちゃんの姉ちゃんはあんまり他人を『カッコイイ』とは言わない人なんだそうだ。
 そんな姉ちゃんが『カッコイイ』と言った人間に、益美ちゃんは興味をもったらしい。
「ねぇ、そんなに『カッコイイ』んだったら見たくない?」
「…あぁ…」
 なんだ、あたしじゃないじゃん。
 気が楽になって「でもさ、『美人』とか『カッコイイ』って個人差あるじゃん?」と笑いながら言うと益美ちゃんはちょっとムキになって
「そうかもしれないけど! お姉ちゃんが『カッコイイ』っていう人、本当にカッコイイんだもん。あたし見たいなぁ」
 と言った。
(なーんだ。取り越し苦労? ってやつ?)
 ――だけど。少しだけ気になって思わず呟いた。
「オカマがいたっていう話は聞いた?」
「へ? おたま?」
 言いながら首を傾げた益美ちゃんに「なんでもない」と笑う。
「こっちのハナシ」
 益美ちゃんの反応からして…全然、心配無用みたいだ。
「――そういえば、お姉ちゃん美人も一緒にいたとか言ってたなぁ…」
「ん?」
 益美ちゃんが呟いた。聞き返したあたしに益美ちゃんが何か言おうとしたんだけど
「起立!!」
 …ちょうど強面の英語の先生が来て、益美ちゃんの話はきちんと聞けなかった。

 ――放課後。
 涼さんに返す服を片手に、学生会室に向かう。
「別に騒ぎになってなくてよかったな、眞清」
「…まぁ、金曜日で、月曜日ですからね。話が拡がってないだけかもしれないですよ?」
「後ろ向きだなぁ。とりあえず話が拡がってなきゃいいんだろ? で、バレてなきゃいいんだろ?」
「…あ!」
 階段を下りきって、ふと見るとつばきちゃんがいた。
「つばきちゃん!」
 声をかけると、振り返った。立ち止まる。
 走って「帰るの?」と訊いた。
「うん。…あ、図書館に寄ってからだけど…」
「そっか」
 なんか…うん。
 ちゃんと話すのは、多分あの金曜日の、帰り道以来だ。
 でも、元気そうでよかった。
 後ろから来た眞清に、つばきちゃんはちょっと頭を下げた。
 ――うぅーん、イイコだなぁ…。
「…じゃあ」
 また、と言ったつばきちゃんにあたしは手を振った。
 一歩足を出して、つばきちゃんは立ち止まる。
「――ありがとう…」
「ん? ナニ?」
 声は小さくて、ナニを言われたかよくわからなかった。
 あたしに言われたのか、それても…眞清に言ったのか。
「ううん、なんでもないの。またね、大森さん」
「またな〜」と手を振りながら
(克己でいいのに)
 …なんて思う。それから、再び学生会室に向かって歩き出した。

「涼さん! 服、ありがとな」
 今日はやかましいメガネオトコはいなかった。
 会長と涼さんしかいなかったけど、あたしは金曜日の報告をする。
 タジマを殴れたこと。会長の名前を出したこと。
 それから、会長の名前に妙にびびっていたこと。
「そういえば、タジマとナニがあったの?」
 と訊いてみたけど、気の弱そうな表情で「前にちょっとね」という答えしかくれなかった。

「とりあえずあたしがやったってバレなさそうだし〜。完璧?」
 笑ってピースしてみる。
 そのままバ●タン星人のように指をチョキチョキ動かした。
「…そうだね、バレる心配は少ないと思うよ」
「――そうね。大分、雰囲気違ったから…」
 会長の言葉に涼さんが続ける。
「…正直、驚きました」
 眞清のシメ言葉に一度チョップをくらわせる。
 ――似合わなすぎて、とか言いたいんだな。このヤロウ。
「似合わねぇのはわかってるんだよ。もう、やらないからなっ」
 言いながら、ついでにほっぺを引っ張ってやった。

「…誰も『似合わない』とは言ってません…」

「――なんか言ったか?」
 うまく聞き取れなくて、手を放しながら訊きかえす。
「なんでもないですよ?」

 眞清はいつもの胡散臭い笑顔かおでそう答えた。

豊里高校学生会支部1<プレハブの使い方><完>

2004年 8月15日(日)【初版完成】
2011年10月15日(土)【訂正/改定完成】

 
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