12時55分。
…そんなつもりはなかったが、ある意味5分前行動だ。
特別教室のある北校舎の一室を覗き込むと人がいた。
6人。みんな女の子だ。
アサエちゃんもいる。
「眞清、よかったな。女の子がいっぱいだぞ」
あたしの言葉に数度瞬きをして、眞清はふと笑う。
「僕、来てよかったですかね?」
「え、いいんじゃないのか?」
誘ってくれたのむこうだし…と、ノックをしないでいたら、ドアの前のあたし達に気付いたらしいアサエちゃんが「いらっしゃい!!」と横滑りのドアを開けてくれた。
「これ、土産」
「え? いいのに〜。でも、ありがとう」
教室に入りつつ『さっぱり塩サラダ』センベイを手渡す。
…結局昼ご飯を食べてない…。
まぁ、いいか。
お菓子を食べる前に買ってきた昼ご飯を食べよう。
「空いてるトコロ座って…ってあんまり空いてないけど」
アサエちゃんの言うとおりだった。
3人掛けの机を2つくっつけてあって、椅子がきっちり並んで10個用意されている。
アサエちゃんが座っていたのは窓側の真ん中の席、その右隣にショートカットの女の子、左隣は空席。でも、既にコップが置いてあるから今いないだけかもしれない。
ドアに近いほうにさっきあたしに声をかけたおとなしそうな女の子と、髪の長い女の子…って…
「つばきちゃん!」
呼びかけて、目が合うと、笑った。
…カワイイ…。
「つばきちゃん、美術部だったんだな」
「最近入ったの」
「あ、知り合い?」
アサエちゃんの言葉に頷く。…ただ…
「ん? ――クラス違うよね? 委員会が一緒とか?」
――アサエちゃんの言うとおり、つばきちゃんとあたしには接点があんまない。むしろ、ない。正直、あまり突っ込まないで欲しい。
アハハハ、ととりあえず笑っとく。
人に言えるような知り合い方じゃなかったから…。眞清は知ってるが。
つばきちゃんはあたしから視線をずらすと眞清と目があったのかペコリと頭を下げる。
あたしの答え(?)にアサエちゃんは首を傾げたけど、結局「ま、いっか」ですませていた。
つばきちゃんの隣…というかアサエちゃんの向かい側の席の女の子…は「ダレ?」と首を傾げながらあたし達を見てる。アサエちゃんの正面に座ってる女の子は少しだけ色を抜いた…のか入れたのかあたしにはちょっとわからないが…髪の女の子。長さは短め。
アサエちゃんの言うとおり、空いてる席は少ない…というか3つみたいだった。
机の位置的に、壁は遠い。
ついでに美術室の椅子は背もたれのない木製の椅子。
「……」
どうもあたしは背中に何か支えがないと落ち着かないのだ。
一番望ましいのは壁。せめて椅子の背もたれ。
…今回は、両方ともない。
我慢すればいいだけのことだけど、ちょっと『ヤラレた』気がする。
「じゃ、ここいいか?」
アサエちゃんの側の、さっきあたしに声をかけてきたおとなしそうな女の子の正面に腰を下ろす。
眞清は「失礼します」とあたしの隣に腰を下ろした。
「ちょっとまってね。そのうちうつみん来るから」
(…うつみん?)
なんだそれ? ――あ、呼び名か?
「そういえば部長どうしたんですか?」
「なんか忘れ物がどうのこうの言ってたよ」
髪の茶色い女の子の問いかけにアサエちゃんが答える。
…と…
「あ、待たせた?」
メガネをかけた女の子が入ってきた。
「うん」
「即答かい」
ちょいとメガネをなおしてスタスタと歩く。
アサエちゃんより頭一つくらい背が高そうだ。
アサエちゃんの隣に座るとあたし達のほうを見た。
「…入部希望者?」
「え」
問いかけ思わず声をあげる。
――そういうつもりはなかったんだけど…。
「あ、あたしがナンパしてきた」
アサエちゃんが軽く手を上げながら言う。
「なんだ、入部希望者じゃないのか…残念」
苦笑みたいな笑みをこぼして、うつみん――部長さんは続ける。
「気が向いたらいつでも入部してね」
…勧誘された…。
「それじゃあ…って、先生がいないじゃん」
「あ、なんか会議だかあるんだって。先に始めていいってさ」
「そう? じゃ、始めるか」
部長さんはメガネを一度押し上げると、続ける。
「今更だけど入部ありがとー」
「いえーい」
パチパチパチ。
手を叩く右側の席の二人つられて、あたしも手を叩いた。