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③お話し
<speaking>

「二人って付き合ってるの?」
 女の子と話すと、どうしてもこういう話題になる。…ことが多い、気がする。
 ワクワク、というような感じに目を輝かせながら、エリカさんが言った。
「いや」
 あたしは首を横に振る。
「友達」
 …そう言って、少しだけ考える。
 眞清は幼馴染みで…あたしの『背中』になると言ってくれた。
 ――『友達』の中でも特別だ。
「…親友?」
 そう呟けば「疑問形ですか…」と隣から突っ込みが入った。
「いや、眞清は友達だけど、特別だからな〜と思ってさ」
 眞清がゆっくりと瞬きを繰り返した。
 よく見ると、眞清のまつげって長いかもしれない。
(…小さい時が小さい時だもんなぁ…)
 女の子顔負けの――むしろあたしは再会するまで女の子だと思っていた――カワイイ顔…。
 どうしてあのまま成長しなかったんだ…(外見が)。
 1人でそんなことを考えていて、気付かなかった。
「…そうですか」
 眞清は、笑っていた。
 なんに対する笑顔かはわからない。
 でも、笑っていた。時々見せる、やわらかい笑みで。

「つまらん!!」

 …ちょっと、ビックリした…。
 ノリコさんだ。あたしの隣…というべきかナナメ前というべきか…で拳を握りつつ言う。
「お似合いなのに…」
 …えぇと。
 ここは、なんと答えるべきだ?
 ガックリした様子のノリコさんにあたしはちょっとばかり焦る。
「どうも」
「…」
 あたしの心境をわかっているのかいないのか…眞清があっさり答えた。
「…それでいいのか?」
 思わず呟く。

「あ、あたしはね、最初大森さんを男の子だと思ってたの」
 アサエさんに発言に「あ…そう?」と首を傾げる。
 よく間違われるから特に気にしない。
 アサエさんは続ける。
「女の子だと知ってちょっと残念だった」
「アハハ! ナニ、一目惚れ?」
 エリカさんの言葉にアサエさんは首を横に振った。
「蘇我くんと大森さん…入ったときから仲がよかったじゃない?」
「あ、あたし達のこと知ってたんだ」
 アサエさんが頷く。
「で、生カップルが見れた! と思ったんだけど」
 肩を落とすような勢いで言われた。やたらと力強い。
「そっちかい!!」
 つっこむエリカさんも力強い。
「?????」
 アサエさんが続けた言葉にあたしは首を傾げた。
 アサエさんにエリカさんはつっこんでたが…何のハナシだ?
(あたしが男じゃなくて残念で? 生カップル?)
 …眞清とあたしがカップル?
 で、あたしが男じゃなくて残念…?

「コラ、そこの腐女子。大森さんが困ってるよ」
 今度はノリコさんがつっこんでいた。
「…婦女子?」
 あたしは聞こえた言葉を繰り返す。ナゼここであえて『婦女子』?
「でもいいの。モデルにさせてもらうから」
「人のハナシ聞いて」
「聞こえな〜い」と笑うアサエさん。ノリコさんがため息をついた。
「…ごめんね大森さん。許してなんて言わないからコレのことは気にしないでね」
「『コレ』かいっ」
『コレ』よ、と繰り返してからノリコさんは続ける。
 会話のテンポが早い。
「大森さんが男じゃなくたって二人は十分お似合いじゃない」
 ノリコさんがため息混じりに言った。
 アサエさんは「えぇ〜違うよ〜」と頬を膨らませる。
「お似合いかもしれないけどさぁ、やっぱ生BLが見たいわけさ!」
 今度はぐっと拳を握った。
 しかし…BL? って、なんだ?
(何かの略か?)
 眞清に目を向けてみたが、首を傾げた。
 眞清もなんのことかわからないらしい。

「オタクトークもいいですけど。そろそろやめないと退かれちゃいますよ、先輩」
 ミサオさんの言葉にノリコさんもアサエさんも「あ」と言って、止まる。
 ミサオさん…それからケイさんも少しだけ笑った。
「見てるコッチは面白いですけどねぇ」
「1年生が逃げちゃったら困りますよ」
 言いながらケイさんが微かに笑う。――やっぱり、オトナっぽい人だ。
「あっ、ソレは困る!! 自称マン研がっ」
「一応美術部にしといてよ…」
「『自称』も『一応』もどうなの…?」
 アサエさんとノリコさんの言葉にエリカさんが呟いた。
 なんだか漫才みたいだ。
「いつもこんな調子なのか?」と誰ともなく訊ねてみれば「こんな調子」とあっさり返された。ちなみにエリカさんに。
「ハハッ、楽しそうだな」
「見ていて」
 あたしのぼやきに眞清が続けた。確かに、と思わず笑ってしまった。
「あ、ごめんよ栗ちゃんにつばきちゃん!! いつもこんなテンションなんだ」
 アサエさんがクリコちゃんとつばきちゃんに言った。
 二人は「いいえ」「あはは」とそれぞれ答え(?)る。

 ――その時。
「お…ダレ?」
 一人、美術室に入ってきた。
「あ、先生〜」
 美術の先生だ。
 あたしは美術を選択してないから、よく知らない先生。
 先生が「新入部員?」と訊ねると「残念ながら違うんですよ」とノリコさんが応じた。
 ノリコさんの言葉に「そうなの?」と先生は首を傾げる。
「男子部員歓迎なのに」
 先生が頭を左右に揺らすと、長い髪が揺れる。
 今日が暑いせいか、まとめてない髪は暑そうに見えた。
「…先生、髪は切らないの?」
 ノリコさんが問いかけると「あぁ、時間がなくってね」なんて答えた。
 アハ、という感じで先生は笑う。
 あたしより髪の長そうな先生は、男だ。
 多分豊里高校の男の先生の中で一番髪が長い。多分ってか絶対。
「会議は終わったんですか?」
「あ、実はまだこれからなんだ。ちょっと様子を見に、ね」
 ヘラッ、という感じで先生は笑う。なんかあんまり怒らなそうな人だ。
 隣の準備室に入って、何かノートみたいなものを手にすると「じゃああまり騒ぎ過ぎないように」と言って美術室を出て行った。

 
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