「二人って付き合ってるの?」
女の子と話すと、どうしてもこういう話題になる。…ことが多い、気がする。
ワクワク、というような感じに目を輝かせながら、エリカさんが言った。
「いや」
あたしは首を横に振る。
「友達」
…そう言って、少しだけ考える。
眞清は幼馴染みで…あたしの『背中』になると言ってくれた。
――『友達』の中でも特別だ。
「…親友?」
そう呟けば「疑問形ですか…」と隣から突っ込みが入った。
「いや、眞清は友達だけど、特別だからな〜と思ってさ」
眞清がゆっくりと瞬きを繰り返した。
よく見ると、眞清のまつげって長いかもしれない。
(…小さい時が小さい時だもんなぁ…)
女の子顔負けの――むしろあたしは再会するまで女の子だと思っていた――カワイイ顔…。
どうしてあのまま成長しなかったんだ…(外見が)。
1人でそんなことを考えていて、気付かなかった。
「…そうですか」
眞清は、笑っていた。
なんに対する笑顔かはわからない。
でも、笑っていた。時々見せる、やわらかい笑みで。
「つまらん!!」
…ちょっと、ビックリした…。
ノリコさんだ。あたしの隣…というべきかナナメ前というべきか…で拳を握りつつ言う。
「お似合いなのに…」
…えぇと。
ここは、なんと答えるべきだ?
ガックリした様子のノリコさんにあたしはちょっとばかり焦る。
「どうも」
「…」
あたしの心境をわかっているのかいないのか…眞清があっさり答えた。
「…それでいいのか?」
思わず呟く。
「あ、あたしはね、最初大森さんを男の子だと思ってたの」
アサエさんに発言に「あ…そう?」と首を傾げる。
よく間違われるから特に気にしない。
アサエさんは続ける。
「女の子だと知ってちょっと残念だった」
「アハハ! ナニ、一目惚れ?」
エリカさんの言葉にアサエさんは首を横に振った。
「蘇我くんと大森さん…入ったときから仲がよかったじゃない?」
「あ、あたし達のこと知ってたんだ」
アサエさんが頷く。
「で、生カップルが見れた! と思ったんだけど」
肩を落とすような勢いで言われた。やたらと力強い。
「そっちかい!!」
つっこむエリカさんも力強い。
「?????」
アサエさんが続けた言葉にあたしは首を傾げた。
アサエさんにエリカさんはつっこんでたが…何のハナシだ?
(あたしが男じゃなくて残念で? 生カップル?)
…眞清とあたしがカップル?
で、あたしが男じゃなくて残念…?
「コラ、そこの腐女子。大森さんが困ってるよ」
今度はノリコさんがつっこんでいた。
「…婦女子?」
あたしは聞こえた言葉を繰り返す。ナゼここであえて『婦女子』?
「でもいいの。モデルにさせてもらうから」
「人のハナシ聞いて」
「聞こえな〜い」と笑うアサエさん。ノリコさんがため息をついた。
「…ごめんね大森さん。許してなんて言わないからコレのことは気にしないでね」
「『コレ』かいっ」
『コレ』よ、と繰り返してからノリコさんは続ける。
会話のテンポが早い。
「大森さんが男じゃなくたって二人は十分お似合いじゃない」
ノリコさんがため息混じりに言った。
アサエさんは「えぇ〜違うよ〜」と頬を膨らませる。
「お似合いかもしれないけどさぁ、やっぱ生BLが見たいわけさ!」
今度はぐっと拳を握った。
しかし…BL? って、なんだ?
(何かの略か?)
眞清に目を向けてみたが、首を傾げた。
眞清もなんのことかわからないらしい。
「オタクトークもいいですけど。そろそろやめないと退かれちゃいますよ、先輩」
ミサオさんの言葉にノリコさんもアサエさんも「あ」と言って、止まる。
ミサオさん…それからケイさんも少しだけ笑った。
「見てるコッチは面白いですけどねぇ」
「1年生が逃げちゃったら困りますよ」
言いながらケイさんが微かに笑う。――やっぱり、オトナっぽい人だ。
「あっ、ソレは困る!! 自称マン研がっ」
「一応美術部にしといてよ…」
「『自称』も『一応』もどうなの…?」
アサエさんとノリコさんの言葉にエリカさんが呟いた。
なんだか漫才みたいだ。
「いつもこんな調子なのか?」と誰ともなく訊ねてみれば「こんな調子」とあっさり返された。ちなみにエリカさんに。
「ハハッ、楽しそうだな」
「見ていて」
あたしのぼやきに眞清が続けた。確かに、と思わず笑ってしまった。
「あ、ごめんよ栗ちゃんにつばきちゃん!! いつもこんなテンションなんだ」
アサエさんがクリコちゃんとつばきちゃんに言った。
二人は「いいえ」「あはは」とそれぞれ答え(?)る。
――その時。
「お…ダレ?」
一人、美術室に入ってきた。
「あ、先生〜」
美術の先生だ。
あたしは美術を選択してないから、よく知らない先生。
先生が「新入部員?」と訊ねると「残念ながら違うんですよ」とノリコさんが応じた。
ノリコさんの言葉に「そうなの?」と先生は首を傾げる。
「男子部員歓迎なのに」
先生が頭を左右に揺らすと、長い髪が揺れる。
今日が暑いせいか、まとめてない髪は暑そうに見えた。
「…先生、髪は切らないの?」
ノリコさんが問いかけると「あぁ、時間がなくってね」なんて答えた。
アハ、という感じで先生は笑う。
あたしより髪の長そうな先生は、男だ。
多分豊里高校の男の先生の中で一番髪が長い。多分ってか絶対。
「会議は終わったんですか?」
「あ、実はまだこれからなんだ。ちょっと様子を見に、ね」
ヘラッ、という感じで先生は笑う。なんかあんまり怒らなそうな人だ。
隣の準備室に入って、何かノートみたいなものを手にすると「じゃああまり騒ぎ過ぎないように」と言って美術室を出て行った。