「個人的意見で、髪をまとめてほしい」
しばらくの沈黙の後、あたしは呟く。
見ていてなんとなく暑い。服装、長袖だったし。
「あぁ、確かに。今日は暑いしねぇ」
「見ててちょっと暑いよね」
「先生は暑くないのかねぇ」
話を聞く限り――みんなそう思っているらしかった。
「克己」
しばらく雑談をしていたら、眞清に呼ばれた。耳元に、囁くように。
声の近さにちょっと驚く。「なんだ?」と答えると、しばらく間があった。
「?」
いつまで経っても続きがない。
もう一度「なんだ?」と言うと、少しはっとしたような顔をしてから、笑った。
「ちょっと、忘れ物してきたみたいなんで、教室いってきます」
「…おう」
その間と笑顔は、ナニ?
(なんか眞清…)
眞清は立ち上がる。そっと、あたしの肩に眞清の手が触れた。
…立ち上がるのに支えが必要か、眞清…。
(なんか、変な気がするなぁ…)
美術室から出て行った眞清を思いながら、首を傾げる。
ケイさんが「ちょっとトイレ」と立ち上がった。
「…さっきの大森さんじゃないけど、いつもあんな調子?」
ケイさんが去った後、ミサオさんが言った。
「あんな、というと?」
「なんというか…」
ミサオさんが言葉を詰まらせる。
「いつもあの距離?」
ノリコさんの言葉に「そうそう」とミサオさんが頷く。
「あの距離…あの距離…」
言いながら考える。あの距離…。
「――かな。大体」
今日はちょっと顔が近かったけど。
まつげが長いと発見。
眞清、女装が似合いそうだ。すごい拒否るけど。
「うをぅ」と妙な声をあげつつアサエさんとノリコさんが顔を見合わせる。
「でも、付き合ってないと?」
「え? うん」
あたしは頷いた。
「そういうミサオさんは? 誰かと付き合ってたりとかしないの?」
「うわ、そうやって切り返してきたか」
いないよ、と笑うミサオさんに「そっか」と笑う。
「……」
付き合う。恋愛する。
――好きになる。
『…カツミ…』
背中が、痛んだ。
――そんな気がした。
『傍にいてくれるって言ったじゃないか…っ』
声、痛み。
…人を『好き』になることが、あれだけ激しいものを含むなら。
(… …)
「…大森さん?」
呼びかけに、ハッとする。
意識せず、あたしはあたしを抱きしめていた。
ノリコさんに寒い? と訊かれて「いや」と首を横に振る。
寒くはない。――寒くはないはずだ。
七分袖のTシャツで後悔したくらいだし。
そうだ。
その、ハズだ…。
『行かないで…――行かせない…』
忘れられない、声。言葉。
あたしを『好きだ』と言った…。『傍にいて』と言った、声。
『――カツミ…ッ』
人を『好き』になることが、あれだけ激しいものを含むなら。
(…こわい)
誰かを好きになること。
誰かに、好きになってもらうこと。
付き合う。恋愛する。――好きになる。
あたしは、あの感情がこわい。
あたしは…誰かを『LIKE』にはなれても『LOVE』にはなれない。