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③お話し
<calling>

「個人的意見で、髪をまとめてほしい」
 しばらくの沈黙の後、あたしは呟く。
 見ていてなんとなく暑い。服装、長袖だったし。
「あぁ、確かに。今日は暑いしねぇ」
「見ててちょっと暑いよね」
「先生は暑くないのかねぇ」
 話を聞く限り――みんなそう思っているらしかった。

「克己」
 しばらく雑談をしていたら、眞清に呼ばれた。耳元に、囁くように。
 声の近さにちょっと驚く。「なんだ?」と答えると、しばらく間があった。
「?」
 いつまで経っても続きがない。
 もう一度「なんだ?」と言うと、少しはっとしたような顔をしてから、笑った。
「ちょっと、忘れ物してきたみたいなんで、教室いってきます」
「…おう」
 その間と笑顔は、ナニ?
(なんか眞清…)
 眞清は立ち上がる。そっと、あたしの肩に眞清の手が触れた。
 …立ち上がるのに支えが必要か、眞清…。
(なんか、変な気がするなぁ…)
 美術室から出て行った眞清を思いながら、首を傾げる。
 ケイさんが「ちょっとトイレ」と立ち上がった。

「…さっきの大森さんじゃないけど、いつもあんな調子?」
 ケイさんが去った後、ミサオさんが言った。
「あんな、というと?」
「なんというか…」
 ミサオさんが言葉を詰まらせる。
「いつもあの距離?」
 ノリコさんの言葉に「そうそう」とミサオさんが頷く。
「あの距離…あの距離…」
 言いながら考える。あの距離…。
「――かな。大体」
 今日はちょっと顔が近かったけど。
 まつげが長いと発見。
 眞清、女装が似合いそうだ。すごい拒否るけど。
「うをぅ」と妙な声をあげつつアサエさんとノリコさんが顔を見合わせる。
「でも、付き合ってないと?」
「え? うん」
 あたしは頷いた。
「そういうミサオさんは? 誰かと付き合ってたりとかしないの?」
「うわ、そうやって切り返してきたか」
 いないよ、と笑うミサオさんに「そっか」と笑う。

「……」

 付き合う。恋愛する。
 ――好きになる。

『…カツミ…』
 背中が、痛んだ。
 ――そんな気がした。

『傍にいてくれるって言ったじゃないか…っ』
 声、痛み。
 …人を『好き』になることが、あれだけ激しいものを含むなら。

(…   …)

「…大森さん?」
 呼びかけに、ハッとする。
 意識せず、あたしはあたしを抱きしめていた。
 ノリコさんに寒い? と訊かれて「いや」と首を横に振る。
 寒くはない。――寒くはないはずだ。
 七分袖のTシャツで後悔したくらいだし。
 そうだ。
 その、ハズだ…。

『行かないで…――行かせない…』

 忘れられない、声。言葉。
 あたしを『好きだ』と言った…。『傍にいて』と言った、声。

『――カツミ…ッ』
 人を『好き』になることが、あれだけ激しいものを含むなら。
(…こわい)
 誰かを好きになること。
 誰かに、好きになってもらうこと。
 付き合う。恋愛する。――好きになる。

 あたしは、あの感情がこわい。
 あたしは…誰かを『LIKEすき』にはなれても『LOVEすき』にはなれない。

 
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