TOP
 

②冬休み前
<ケータイ>

「ケータイ」
 貰った誕生日プレゼントを、眞清に見せた。
 やや目を丸くした眞清だったけど、しばらくしてから「買ったんですか?」と訊いてくる。
 昨日はクリスマス。
 23日に誕生日のイクと、27日に誕生日のあたしの間…丁度クリスマスの25日に、毎年誕生日プレゼント(兼、クリスマスプレゼント)を貰っていた。
 今年のクリスマスは平日で、あたし自身がケータイを買いに行ったわけじゃなかった。
「プレゼントで貰った」
 シルバーの、シンプルなケータイ。
 初心者でも使いやすい(らしい)あまり機能が多くないものだと言っていた。
 父さんからのプレゼントだ。
「…クリスマスの?」
 更に続いた眞清の問いかけに「と、誕生日」と付け足す。
「あぁ…」と頷いた眞清だったが「…あれ」と呟いた。
「…昨日でしたっけ?」
「うんにゃ、27日」
 あたしは首を横に振って、家の恒例――クリスマスにプレゼントをもらうことを教える。
 母さんとイクからはそれぞれ服を貰った。
 あたしはイクにチョーカーをプレゼントした。アクセ好きなイクにはここ数年何かしらのアクセを贈っている。イクは一応「ありがとう」と笑ってた。気に入ってくれたんなら、いいんだけど。
「そうなんですか」
 頷いた眞清に「そう」と応じながらも、ふと思って眞清に問いかける。
「そういや眞清って、誕生日いつだったっけ?」
「…2月です」
「おぉ、あたしのが早かったんだな」
 ずっと一緒にいたけど…あたしは眞清の誕生日を知らなかった。
 知らなかったから当然かもしれないけど…そういや今年、眞清に何も渡さなかったなー、とか思う。
 …ずっと世話になってるし、今度の誕生日は何か用意しようかな…。
「2月の…いつだ?」
 問いかけに対する眞清の「2日です」という端的な答えに「ふぅん」と頷く。
 2月2日、と。さて、ちゃんと覚えとかないと…。
(あ)
「眞清の誕生日メモれるじゃん」
「はい?」
 早速ケータイにメモリ登録をする。
 眞清はまだケータイ持ってないけど、名前と簡単なプロフィールの登録だけでも出来たハズ…って、コレでいいのか?
 ポチポチとケータイを操作して、画面に『登録完了』の文字が表示される。
「おし、多分登録できた」
「…多分ですか」
「や、あんま説明書読んでないし」
 電車の中で操作しながらそんな会話をする。
「…読みましょうよ」
「わかんなくなったらな。一応コレ、簡単操作ってのがウリらしいし」
 アドレス帳の確認…と…あ、眞清発見。
「ちゃんと登録できたっぽい」
 言いながら、眞清に見せた。
『004:眞清
 2月 2日 水瓶座』
「…星座まで?」
「いや、コレはケータイが勝手に入れた」
 眞清は瞬いて、眺める。
「身内以外じゃ、眞清が最初だな」
「…え」
 ちょっと間の抜けた声に思わず笑ってしまう。
「ケータイ買ったら、番号教えろよ? 登録するから」
 あたしが登録したのは、家の電話番号と、父さんとイクのケータイ番号…3つの電話番号だ。母さんは、ケータイを持っていない。
 パタン、とケータイを閉じてポケットに入れる。
「…はい」
 頷いた眞清は、わずかに笑う。
「いつ買うかわかりませんけどね」
 続いた言葉にあたしも「そぉか」と笑った。

「え、ケータイ?」
 学校に着いたら、益美ちゃんがケータイに気付いた。
「あぁ、買ってもらった」
 頷くと「番号!」と鋭く言われる。シュバッと、益美ちゃんは水色と黄緑のストライプのケータイを手にした。益美ちゃんの勢いに笑ってしまいながらも「うん」と頷く。
「赤外線〜」と慣れた手つきで益美ちゃんがケータイを操作するが…あたし、まだよく赤外線? とかの操作がわからないんだけど。
「ゴメン、益美ちゃん、赤外線のやり方よくわかってない」
「え? そうなの?」
 ケータイにあった黒い部分をあたしの方に向けていた益美ちゃんはパチパチ瞬いた。
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「ああ」
 あたしは益美ちゃんにケータイを差し出す。
「シンプルケータイだね〜」とか言いつつ、操作をする。しばらくポチポチやっていたけど、「おし!」と満足気に笑った。
「コレでいいハズ。まずは送るね」
 よくわからないまま、益美ちゃんからケータイを受け取る。
『赤外線受信中』の表示に瞬きながらも、されるがままに益美ちゃんのケータイを向かい合わせにした。
『データ受信 登録しますか?』
 画面にそう表示されて、『はい』と『いいえ』も表示される。
(これは『はい』でいいんだろうなぁ)
 そんなことを思って、『はい』を選択した。
『益美 データ登録しました』
「登録できた…かな?」
 呟きつつも、アドレス帳を確認する。
 眞清の下に『益美』という表示が出た。益美ちゃんのデータを選択して、開いてみる。
「あ、うん出来てる出来てる」
「おし! 次は克己の番号頂戴!」
「えぇと…ちょっと待って…」
 益美ちゃんに頷きつつも、手間取る。昨日の今日じゃまだわからない…。
 眞清に言わせれば「説明書を読まないからじゃないですか」とか突っ込まれそうだが。
 手間取ってるあたしの様子に益美ちゃんは「なんならワンコと空メールでもいいよ?」と言ってくれる。…言ってはくれたが。
「…? 犬?」
 わんこ、って何だ? 思わず聞き返したら益美ちゃんが一瞬目を丸くして、噴き出した。
「ワンコ違いだよ! ワンコール。あたしに電話して?」
「…あ、そーゆーことか」
 赤外線のやり方はよくわかんないけど、それなら出来る。
 頷いて益美ちゃんに電話する為に操作をしていたら「次から「犬」って言おうかな」とか何とか、益美ちゃんが笑ってる。若干ツボだったのか、まだ笑ってる。
 ケータイに耳を当てると、誰かの歌が聞こえて、益美ちゃんのケータイが…誰かの歌で…鳴る。
「あ、来た来た」
 益美ちゃんがそう言うと、あたしはケータイを切った。
「大森克己、…っと。登録!」
 …素早い。流石、使い慣れている…。
「あとメール出来る?」
「あぁ、ちょっと待って…」
 メールの作り方は、昨日イクに教えてもらった。
 メール作成メニューを選択して、宛先を益美ちゃんに設定する。
 空メール…ってーと何も書かなくていいんだろうけど…本文に「克己」とだけ入力した。
 送信ボタンを押すと、じっとあたしを見ていた益美ちゃんの手元のケータイが鳴る。
「あ、来た来た! …って、ナニこの文字の羅列」
 アドレスを見たらしい益美ちゃんの問いかけに「ん?」と声を上げる。「あぁ」と思いいたって、言葉を続けた。
「設定し直してないから」
 買ったままで設定のし直しをしていない。イク曰く、アドレスは変えようと思えば後で変えられると言っていた。
 ケータイを買ってくれたのは父さんで、アドレスの設定まではしなかったとも言っていた。
「つまんない。なんか考えようよ」
「つまんない…って…」
 思わず苦笑する。益美ちゃんのアドレスは好きな歌のタイトルと、自分の誕生日を織り交ぜたモノだと聞いた。
「…おはよう」
「あ、はるちゃん!」
 あたしと頭を突き合わせていた益美ちゃんだったけど、そう言いながら振り返る。
 春那ちゃんがちょっとばかり首を傾げた。
 益美ちゃんが「克己、ケータイゲットだって!」とあたしの手元を示す。
「…え、あ、本当?」
「あぁ、プレゼントで貰った」
 ちょっと持ち上げると、「番号教えてもらってもいい?」と春那ちゃんが言った。
「うん。まだ操作慣れてないからトロいけど」
「…ふふっ」
 春那ちゃんがちょっと笑う。
 取りだした春那ちゃんのケータイは白くてツヤツヤしているケータイだ。所々にキラキラした花やハートのシールが貼ってある。
 益美ちゃんに教えてもらいつつ、春那ちゃんとも無事に番号とアドレスを交換した。
 春那ちゃんのアドレスは好きな言葉の単語を組み合わせた言葉、らしい。
「ふぅん」
 益美ちゃんにも言われたが…新しいアドレスをどうしたモノか、と思う。
 しばらく考えていたら、更科も来た。
「はよ」
「おはよ」
 そう応じると、更科の視線があたしの手元に集中しているのがわかった。
「…大森、ケータイ買ったのか?」
「ああ、昨日プレゼントで貰った」
 そうやって応じたら、益美ちゃんに「そういえば」と言われる。
「克己ってクリスマスにもプレゼント貰えるの? いいなぁ〜」
「あぁ…クリスマスと誕生日と一緒だよ」
 益美ちゃんが「え」とちょっとばかり妙な声を上げる。
 そんな益美ちゃんにあたしは今朝、眞清に言ったように家の恒例を益美ちゃんにも伝えた。
「イク…あ、あたしの兄貴な。兄貴が23日に誕生日でさ、ちょうど間の25日にいつもプレゼント貰ってケーキを食べるんだ」
 一緒くた、と手を合わせる。
「…克己の誕生日って、確か27日明日だよね?」
 流石は益美ちゃん、と言うべきか。ちゃんと覚えている事に感心する。
 あたしの誕生日が明日…っていつ言ったっけ? ってくらいにおぼろげな記憶しかないのに。
「正解」と笑うと、益美ちゃんに「明日は何もしないの?」と言われた。
 ちょっと考える。今までの記憶をさかのぼって…「うん」と頷いた。
「誕生日って…ずーっと何もしてないなぁ」
「えぇえぇぇえええっ」
 強弱のついた声を上げる益美ちゃん。…そんなにビックリされるトコロか…?
「そうなんだ…ケーキも食べないの?」
「うん。クリスマスがケーキの日」
 そうやって答えると、予鈴が鳴った。
「うっそぉ〜」
 ほぼ同時にまた「衝撃」と言わんばかりの態度で益美ちゃんが言った。益美ちゃん、オモシロイなぁ。
「…大森」
「ん?」
 呼びかけに更科に視線を戻す。…と、松坂さんが来た。
「はーい、ホームルームを始めますよ〜」
 松坂さんの声に、何故か更科が項垂れる。
「ヤバッ」
 益美ちゃんが慌てて席に戻って行った。

 
TOP