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③明日から冬休み
<プレゼント>

 今年の授業は、金曜日の今日で終わりだ。
 終業式が終わってホームルームも終われば、今日はもう帰れる。
 いつもより帰れる時間が早い。

 通知表が手渡され、決して長くはない冬休みの諸注意なんかをホームルームで言われて、今日は解散だ。
「怪我や事故には注意して、皆さんよい冬休みを」
 そんな松坂さんの言葉を最後に、ホームルームが終わる。
(さて、と)
 先日…新たな生徒会長から『新会長の好きな人は誰でしょう』っていう『テスト』が出されている。
 調査…と言っても人から話を聞くくらいだけど…はちょっとだけ、やっていた。
 今日は早い時間に学校からは解放されるし、ちょっと調査を進めるかな…なんて思って、いつも通りに眞清を巻き込もうと振り返った。――振り返ろうとした。
「克己」
 呼びかけに、振り返る途中で視線を声の方に向ける。
 益美ちゃんと春那ちゃんが立っていた。
 いつもより長めの休みに入るから持ち帰る物でもあるのか、二人とも紙袋を持っている。
「ん?」
 どうした? と問いかけたら、紙袋をズズイと差し出された。…二人から。
「え?」
 なんだ? と紙袋と二人の顔とも眺める。ニッと益美ちゃんが笑った。
「ハッピーバースディ!」
「へ?」
 あたしは、差し出された袋に視線を落とす。
「お誕生日、おめでとう」
 あたしはまた「…へ?」と声を上げてしまった。益美ちゃんが笑う。
「克己、さっきから「え? へ?」しか言ってないよ」
 差し出された紙袋。「はい」と益美ちゃんと春那ちゃんが繰り返す。
「プレゼント。受け取って?」
 春那ちゃんの言葉に、ようやく手を伸ばした。
 益美ちゃんと、春那ちゃんから…紙袋を。
「そんなに驚くトコロ〜?」
 益美ちゃんがまた笑う。
「うん…驚いた」
 驚きが最初で…今になってじわじわと、喜びが沸いてくる。
「…ありがとう。嬉しいよ」
 益美ちゃんのくれた紙袋はネコが描いてあって、春那ちゃんがくれた紙袋は黄色とオレンジ色のチェックだった。
「開けてもいいか?」
 そう、二人に訊ねる。
「うん」
「気に入ってくれるといいんだけど」
 益美ちゃんと春那ちゃんの言葉に、あたしはまず右手でもらった春那ちゃんの紙袋を開けた。
 紙袋には更にキレイにラッピングされた物が入っている。手触りからしてなんとなくふかふかしたモノみたいだった。
 水色の地に白く、小さな星がちりばめられているような模様の包装紙を開けると、そこにはボンボンのついたニット帽子が入っていた。
 それを見た益美ちゃんが何故か「あ」と言う。
 オフホワイト、とでも言うのだろうか。真っ白じゃないけど、クリーム色よりも淡い色で、渋みの効いた赤いラインが入っていた。
「帽子だ! うわー、温かそう!」
「よかったら使って」
「使う、使う! 今日から使う!」
 帰りに早速被ろうと思いながら、春那ちゃんに「ありがとう」と呟いた。
 一度机に置いた、益美ちゃんから貰った紙袋にも手を伸ばす。
「あたし、結構いいシゴトしたと思う」
 そう言った笑顔の益美ちゃんに、「なんだろう」と思いながら紙袋を開ける。
 紙袋の中には、イラストが印刷されたビニールっぽい袋が入っていた。こっちもなんとなく柔らかそうな手触りがする。
 リボンで口元が閉まるようになっている袋の、リボンを解く。
「あ」
 そこには、オフホワイトと渋みの効いた赤のラインが入ったマフラーが入っていた。
 色合いが、春那ちゃんがくれた帽子とよく似ている。
「セットみたいだな」
 春那ちゃんがくれた帽子と、益美ちゃんがくれたマフラーを並べた。
「全ては計画通り…」なんて腕を組んだ益美ちゃんに思わず「スゴイ」と手を叩いてしまう。
「冗談。単なる偶然」
「でも…だったら尚スゴイな」
 嬉しかった。
 …まるでお揃いセットみたいだったが、ってことじゃなくて。
「嬉しい。…ありがとう!」
 こうやって誕生日を覚えていてくれて…プレゼントまで用意してくれた、ってことが。
「大事に使うよ。ありがとう」
 自分が思わず笑ってしまっていることには気づいていた。
 …でも、嬉しくて、嬉しくて…笑えてしまう。
「……――」
 春那ちゃんがゆるゆる瞬いていた。益美ちゃんが一つ、息を吐き出す。
 …あれ? はしゃぎ過ぎた?
 でも、嬉しいものは嬉しい。
「克己が男の子じゃなくてよかったー…」
 ポソリ、と益美ちゃんが呟いた。
 なんでそんなハナシになるのか分からず、思わず「へ?」と声を上げてしまった。
 益美ちゃんは「ふぅ」ともう一つ息を吐き出すと、続ける。
「そんな顔されたら、いくらでも貢ぎたくなっちゃうよ」
 そんな顔って…どんな顔だ?
 よくわからなくて、また「え?」と声を上げてしまう。
 …まぁ、自分がどんな顔してたっていいや、と思いなおして、「大切に使わせてもらうな」と告げた。
「今日の帰りから早速使うよ」
 言いながら、一度広げたマフラーを畳む。
「ありがとう」
 …感謝の言葉しか、浮かばない。
 益美ちゃんと春那ちゃんが顔を見合わせていた。ふと、どちらからともなく笑みを浮かべる。
「どういたしまして」
「喜んでくれて、嬉しい」
 益美ちゃんと春那ちゃんの言葉に、あたしはまた笑った。

「そういえば…二人は誕生日、いつだったっけ?」
 過ぎてしまった気がする…という認識はあったけど、『いつ』というのを知らない。
「あたしは6月」
 益美ちゃんの「ちなみに13日ね」とも続いた言葉に頷いて、脳みそにインプットする。
 …あとでケータイに登録しておこう。
 春那ちゃんに視線を移すと「私は4月」と静かに言った。
「4月の?」
 何日なのか…と続きを促すと、少しだけ笑って「9日」と短い答えが戻ってきた。
「…二人とも早めなんだな、誕生日」
 春那ちゃんの誕生日…4月9日なんていったら、入学してすぐくらいだ。
「というか、克己が冬生まれなのが意外だよね」
「? そうか?」
 思わず聞き返したら「なんとなく夏生まれっぽい」と益美ちゃんは人差し指をくるくる回す。
 どこでそう思うのかわからないまま「…そうか…?」とちょっとばかり首を傾げた。
(まぁ、いいや)
「これ…本当にありがとな」
 繰り返して、紙袋を示す。
 誕生日…二人にプレゼントを贈りたいな、と思った。

 
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