今年の授業は、金曜日の今日で終わりだ。
終業式が終わってホームルームも終われば、今日はもう帰れる。
いつもより帰れる時間が早い。
通知表が手渡され、決して長くはない冬休みの諸注意なんかをホームルームで言われて、今日は解散だ。
「怪我や事故には注意して、皆さんよい冬休みを」
そんな松坂さんの言葉を最後に、ホームルームが終わる。
(さて、と)
先日…新たな生徒会長から『新会長の好きな人は誰でしょう』っていう『テスト』が出されている。
調査…と言っても人から話を聞くくらいだけど…はちょっとだけ、やっていた。
今日は早い時間に学校からは解放されるし、ちょっと調査を進めるかな…なんて思って、いつも通りに眞清を巻き込もうと振り返った。――振り返ろうとした。
「克己」
呼びかけに、振り返る途中で視線を声の方に向ける。
益美ちゃんと春那ちゃんが立っていた。
いつもより長めの休みに入るから持ち帰る物でもあるのか、二人とも紙袋を持っている。
「ん?」
どうした? と問いかけたら、紙袋をズズイと差し出された。…二人から。
「え?」
なんだ? と紙袋と二人の顔とも眺める。ニッと益美ちゃんが笑った。
「ハッピーバースディ!」
「へ?」
あたしは、差し出された袋に視線を落とす。
「お誕生日、おめでとう」
あたしはまた「…へ?」と声を上げてしまった。益美ちゃんが笑う。
「克己、さっきから「え? へ?」しか言ってないよ」
差し出された紙袋。「はい」と益美ちゃんと春那ちゃんが繰り返す。
「プレゼント。受け取って?」
春那ちゃんの言葉に、ようやく手を伸ばした。
益美ちゃんと、春那ちゃんから…紙袋を。
「そんなに驚くトコロ〜?」
益美ちゃんがまた笑う。
「うん…驚いた」
驚きが最初で…今になってじわじわと、喜びが沸いてくる。
「…ありがとう。嬉しいよ」
益美ちゃんのくれた紙袋はネコが描いてあって、春那ちゃんがくれた紙袋は黄色とオレンジ色のチェックだった。
「開けてもいいか?」
そう、二人に訊ねる。
「うん」
「気に入ってくれるといいんだけど」
益美ちゃんと春那ちゃんの言葉に、あたしはまず右手でもらった春那ちゃんの紙袋を開けた。
紙袋には更にキレイにラッピングされた物が入っている。手触りからしてなんとなくふかふかしたモノみたいだった。
水色の地に白く、小さな星がちりばめられているような模様の包装紙を開けると、そこにはボンボンのついたニット帽子が入っていた。
それを見た益美ちゃんが何故か「あ」と言う。
オフホワイト、とでも言うのだろうか。真っ白じゃないけど、クリーム色よりも淡い色で、渋みの効いた赤いラインが入っていた。
「帽子だ! うわー、温かそう!」
「よかったら使って」
「使う、使う! 今日から使う!」
帰りに早速被ろうと思いながら、春那ちゃんに「ありがとう」と呟いた。
一度机に置いた、益美ちゃんから貰った紙袋にも手を伸ばす。
「あたし、結構いいシゴトしたと思う」
そう言った笑顔の益美ちゃんに、「なんだろう」と思いながら紙袋を開ける。
紙袋の中には、イラストが印刷されたビニールっぽい袋が入っていた。こっちもなんとなく柔らかそうな手触りがする。
リボンで口元が閉まるようになっている袋の、リボンを解く。
「あ」
そこには、オフホワイトと渋みの効いた赤のラインが入ったマフラーが入っていた。
色合いが、春那ちゃんがくれた帽子とよく似ている。
「セットみたいだな」
春那ちゃんがくれた帽子と、益美ちゃんがくれたマフラーを並べた。
「全ては計画通り…」なんて腕を組んだ益美ちゃんに思わず「スゴイ」と手を叩いてしまう。
「冗談。単なる偶然」
「でも…だったら尚スゴイな」
嬉しかった。
…まるでお揃いみたいだったが、ってことじゃなくて。
「嬉しい。…ありがとう!」
こうやって誕生日を覚えていてくれて…プレゼントまで用意してくれた、ってことが。
「大事に使うよ。ありがとう」
自分が思わず笑ってしまっていることには気づいていた。
…でも、嬉しくて、嬉しくて…笑えてしまう。
「……――」
春那ちゃんがゆるゆる瞬いていた。益美ちゃんが一つ、息を吐き出す。
…あれ? はしゃぎ過ぎた?
でも、嬉しいものは嬉しい。
「克己が男の子じゃなくてよかったー…」
ポソリ、と益美ちゃんが呟いた。
なんでそんなハナシになるのか分からず、思わず「へ?」と声を上げてしまった。
益美ちゃんは「ふぅ」ともう一つ息を吐き出すと、続ける。
「そんな顔されたら、いくらでも貢ぎたくなっちゃうよ」
そんな顔って…どんな顔だ?
よくわからなくて、また「え?」と声を上げてしまう。
…まぁ、自分がどんな顔してたっていいや、と思いなおして、「大切に使わせてもらうな」と告げた。
「今日の帰りから早速使うよ」
言いながら、一度広げたマフラーを畳む。
「ありがとう」
…感謝の言葉しか、浮かばない。
益美ちゃんと春那ちゃんが顔を見合わせていた。ふと、どちらからともなく笑みを浮かべる。
「どういたしまして」
「喜んでくれて、嬉しい」
益美ちゃんと春那ちゃんの言葉に、あたしはまた笑った。
「そういえば…二人は誕生日、いつだったっけ?」
過ぎてしまった気がする…という認識はあったけど、『いつ』というのを知らない。
「あたしは6月」
益美ちゃんの「ちなみに13日ね」とも続いた言葉に頷いて、脳みそにインプットする。
…あとでケータイに登録しておこう。
春那ちゃんに視線を移すと「私は4月」と静かに言った。
「4月の?」
何日なのか…と続きを促すと、少しだけ笑って「9日」と短い答えが戻ってきた。
「…二人とも早めなんだな、誕生日」
春那ちゃんの誕生日…4月9日なんていったら、入学してすぐくらいだ。
「というか、克己が冬生まれなのが意外だよね」
「? そうか?」
思わず聞き返したら「なんとなく夏生まれっぽい」と益美ちゃんは人差し指をくるくる回す。
どこでそう思うのかわからないまま「…そうか…?」とちょっとばかり首を傾げた。
(まぁ、いいや)
「これ…本当にありがとな」
繰り返して、紙袋を示す。
誕生日…二人にプレゼントを贈りたいな、と思った。