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③明日から冬休み
<調査>

 新会長…ワシザワさんから、引き続き学生会室の隣…元副会長の片割れ、野里さん曰く『支部室』…を使うのに、課題っぽいのが出されている。
 その課題テストは、『ワシザワさん新会長の好きな人を当ててみて』というものだった。
 2学期最終日、授業が終わると早々に解放される今日は、眞清を巻き込んでその調査をすることにした。貰ったプレゼント…紙袋を持ってひとまず学生会室に向かう。
(しかし…なんでそんなネタをテストにするんだ?)
 ワシザワさんの好きな人は誰か――なんてワシザワさんが自分から出題するのが素朴な疑問だ。
 それだけバレない自信があるのか…と眞清と予想しているが。
(…コレで『好きな人はいない』なんてオチだったりしないよな…?)
 ソレはソレで答えになるのか? なんてことを考える。
 視界の隅に見覚えのある人が映ってあたしはしっかりと、その人を見た。
 予想通り、涼さん…そして冬哉さんがいた。
「涼さん、冬哉さん!」
 呼びかけると涼さんと冬哉さんが振り返る。
「今、帰り?」
「そ。さっさと帰ってコタツでのんびりしようかと思って」
 冬哉さんの答えに思わず「ははっ」と笑う。
「あれ、それ…」
 あたしの手元の紙袋が気になったのか、冬哉さんが声を上げた。
「コレ? …あ、そうそう。春那ちゃんがくれたんだ」
「益美ちゃんも」ともう一つの紙袋も示す。
 なんか嬉しかった感情がまた戻ってきて、思わず笑ってしまっていた。
「大森さん、誕生日か何かだった?」
 冬哉さんの問いかけに「おう。今日な」と頷く。
「おめでとう」と少し笑った冬哉さんに「ありがとう」と応じた。
「大森さん、冬生まれなのね」
 涼さんの言葉に頷く。「おめでとう」と涼さんも言ってくれて嬉しかった。
「そういえば大森さん、ケータイ買ったんだって?」
 冬哉さんの言葉にちょっと瞬いてしまった。
「あ、うん」
 なんで知ってるんだろう、とか思ったけど…あれか、春那ちゃん経由か。
「誕生日プレゼント…にならないかもしれないけど、番号交換しない?」
「え? あ、いいの?」
 冬哉さんの言葉に思わず聞き返してしまう。冬哉さんは気が弱そうに見える表情のまま頷いて、続けた。
「なんかあったら連絡くれていいから」
「……」
(なんかって、ナニ?)
 そう思ったが、折角なので番号とアドレスを交換する。
 冬哉さんのケータイは真っ黒で、ストラップはついてなかった。
 もたもたしつつも無事、冬哉さんと番号とアドレスを交換すると涼さんに問いかけた。
「涼さんも教えてもらってもいい?」
「え? …えぇ、いいわよ」
「ありがと」
 涼さんのケータイは水色のケータイだった。ストラップがアジアンテイストの紐細工とでもいうのだろうか…? なんか、紫色と青のストラップがついている。
 やっぱり遅いけど、涼さんの番号とアドレスも登録できた。
「あ…そうだ」
 涼さんの番号とアドレスの登録が終わって、あたしは問いかけた。
「新会長からのテスト…というか…」
 言葉を選ぼうとしたけど、そういえば二人はテストが出された時にいたじゃん、とか思い直す。
「新会長の好きな人って知ってる?」
 冬哉さんと涼さんにそう訊ねた。
「あぁ」
 冬哉さんはそう言って、相変わらず気が弱そうな雰囲気のまま続ける。
「鷲沢さんは涼のこと好きだと思うよ」
「…え」
 涼、と端的に言った冬哉さん。…『涼』って…。
 冬哉さんの発言にか「…冬哉…」と涼さんが若干ため息交じりのような声を上げる。
「とりあえず、俺より涼の方が断然好かれてると思う」
「…鷲沢さんのいう『テスト』の…答えは私じゃないと思うけど?」
 二人の会話を聞きながら…そういえば、と思った。
 新会長からテストを出された時…新会長は、涼さんにすっげぇいい笑顔をみせていたな、と思いだす。
「…なぁ、涼さんと新会長って、なんか接点あるの?」
『涼先輩』と呼んでいたことも思いだして問いかけた。
「え? …あぁ、部活が一緒だったの。文芸部で」
「あ、あの人文芸部なんだ」
 涼さんは「そう」と頷く。
「文芸部では、そういう話をしたりしたんですか?」
 眞清がそう、涼さんに問いかけた。眞清の問いかけに涼さんはちょっとばかり考えるような顔をする。
「…少なくとも、私は知らないわね。…ただ…冬哉じゃないけど、すごく慕ってくれたとは思うけど」
 涼さんは自分を示しながらそう、呟いた。
「文芸部、か」
 部活仲間に訊いてみればちょっと情報収集できるかなー、なんてことを思う。
 ウチのクラスに文芸部っていたかな…。
「ごめんね、あんまり役に立てなくて」
 冬哉さんに「ううん」と首を横に振る。
「もし、なんかわかったら情報ヨロシク」
 ちょっとだけケータイを持ち上げる。冬哉さんが瞬いて、「うん」と少しだけ笑った。
「涼さんもヨロシク」
「もし、情報が流れてきたら…ね」
 苦笑っぽい笑顔だったけど、涼さんも頷いてくれる。
「おーすっ! こんなところでナニたむろしてんのー?」
 聞き覚えのある声に振り返ると、野里さんがいた。
 冬哉さんが「亮太」と呼びかけて、涼さんが「…野里…」とやや低い声を上げる。
「大森さんがケータイ買ったって」
 冬哉さんが言いながらあたし…の持ってるケータイ…を示す。
「マジで? 番号交換しとく?」
 野里さんの言葉になんか笑ってしまいながら「じゃあ一応」と頷く。
「一応ってなんだ、一応って」
 言いながら野里さんがサクサク操作する。…やっぱみんな手慣れてるなぁ…。
 感心しちまうな、思わず。
 野里さんのケータイは折り畳み式のつがい部分が赤、先端部分が黒…っていうデザインで、ストラップはケータイが独特なせいか、シンプルな少し大きめの丸い木のビーズに紐がついてるようなモノだった。
 あたしの慣れない手つきに野里さんが笑いつつも、野里さんのアドレスと番号も登録する。
「あー…そういえば野里さん、いきなりだけど新会長の好きな人って知ってる?」
「え? …ああ、テストか。おれは知らねぇなぁ…」
 野里さんも冬哉さん達と同じように、新会長から『テスト』を出されていたことを知っていた。
 しばらく頭を掻いていた野里さんだったけど、「あ」と閃いたような顔をして続ける。
「美弥ちゃん、多分涼のことスキだと思うぜぇ?」
「…それ、冬哉も言ったから」
 ボソリと涼さんが言う。…やっぱりなんとなーく、涼さんは野里さんに手厳しい。…気がする。
「あ? そう? でもおれもそう思うし…ついでにおれはあんま好かれてないっぽい」
 クククッと野里さんは笑いながら言った。
 その笑いは涼さんに対してなのか、新会長に対してなのか。
「ちょーっと理由はわかんねぇんだけどさ、なんとなくキビしいんだよな」
 野里さんの言葉を聞いて、冬哉さんが「なんでだろうねぇ」と呟いた。
「…野里の態度ノリじゃないの?」
 ボソリと涼さんが零す。
「うわ、涼ってばキビしい」
 そう言いながら、野里さんは笑っていた。

「じゃあ…あー、よいお年を!」
 それからちょっとだけ雑談すると、冬哉さん達とは別れた。
 別れ際の野里さんの言葉に、そういえば休み明けはもう新年だと思いだして「また来年」と手を振る。
「…眞清」
「はい?」
 なんか腹が変なカンジがするなぁ、と思ったら…あれだ。今日は弁当がないから昼ご飯がまだだった。
「腹減らないか?」
 あたしの問いかけに「そんなには」と応じる眞清。
 眞清に「メシどーする?」と問いかけたのと…
「あ、大森っ!」
 …そう、あたしを呼ぶ声が聞こえたのはほぼ同時だった。
 振り返ると…更科がいた。
「おぅ、更科」
「今帰りか?」
「あー…メシ持ってきてないけどどうしようか、って話してたトコ」
 眞清を示すと、更科が一瞬目を鋭くした…気がした。
 更科に振り返ったあたしは、眞清の表情を見ることはなかったが。
「なんだ? まだ学校にいる予定があんのか?」
 続いた問いかけに「そうだな」と頷く。
 もうちょっと、聞きこめるなら聞きこみたいと思っていた。
「オレもさ、メシ食ってからバイト行こうと思ってんだ。コンビニ行くならおごってやるぜ?」
「? …なんで?」
 更科のそんな提案に思わず首を傾げる。更科は「大森、今日誕生日なんだろ?」と言って、笑った。
 あたしはちょっと考える。
「…え、いいの?」
「年に一度くらいな」
 更科に「じゃあ、色々ガッツリ買ってもらおうかな」と冗談を言うと「マジか」とまた笑う。
「っつーわけで、眞清コンビニ行こう!」
「…あ、はい」
 眞清は頷いて、更科とあたし…それから眞清は学校の傍のコンビニに向かった。

 
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