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④ケータイとストラップ
<テストの答え>

「――涼さん!」
 ある意味話題になっていた存在――涼さんがこちらに顔を向ける。
 軽く手を上げると、涼さんがこっちに近付いてきた。
「あけましておめでとう」
「…あ、おめでとう。今年もよろしく」
 歩み寄った涼さんに言われて、応じた。
「そういえば、野里さんと会長も今年初だったな。今年もヨロシク」
 今更かもしれないけど、野里さんと会長にもそう挨拶をする。
「そーいやそうだったな。あけおめーっと」
 野里さんがそう言うと、会長も「今年もよろしく」と少しばかり笑う。
 会長はあたしから涼さんに視線を移した。
「涼先輩、あけましておめでとうございます!」
「おめでとう」
 応じた涼さんに会長は嬉しそうに笑う。
 その表情に、本当にスキなんだなー、って思う。
(…答え…涼さんだったりするのかな?)
 なんだかんだで、会長からの『テスト』の答えを言ってみたことはなかった。
(ダメ元で、会長の好きな人は涼さん…って言ってみようかな)
 そんなことを思っていると、涼さんが野里さんに視線を移して「野里も」と付け足すように言った。
「おう。今年もヨロシク」
 ニッと笑った野里さんに涼さんは「…卒業までね」とボソリと付け足す。
「ヒデェ! 卒業で縁もブチ切れかい!!」
 野里さんに対して涼さんは言葉で答えず、ため息みたいな吐息で応じた。
「涼…冷たいなぁ…」
「気のせいじゃない?」
 あっさり応じた涼さんに「マジか」と野里さんは笑う。
 …それは、さっきまで見せた苦笑っぽい笑顔じゃなく…ちゃんと、笑顔で。
(やっぱ野里さん、隠してないなぁ…)
 涼さんを好きなことが、他人であるあたしでもわかった。
 ふと、思う。
(…まさか会長…涼さんがスキだから、野里さんがスキじゃない、のか?)
 まさか、涼さんをスキなライバル…的なカンジで。
(うぅーん…)
 仮定だが――自分としてはビミョーに納得できてしまって、あたしはチラリと会長を見た。
 会長は野里さんと話す涼さんを…二人を見ていた。

「…あ、大森さん…」
「ん?」
 野里さんと話していた涼さんが、ふとあたしに呼びかける。
「ストラップ、つけたのね」
「え? あぁ、これな」
 ポケットに入れたままのケータイ。ストラップだけがポケットから外に出ていて、多分見えたんだろう。
「貰ったんだ」
 ケータイを引っ張り出して、涼さんに見せる。
「…キレイね」
 カラフルだけど『カワイイ』って感じの甘いデザインではない。
 涼さんに「あぁ」と頷きつつ、思わず笑ってしまっていた。
「なんだ? 男からか?」
 妙に笑っている野里さんに問いかけ。…その笑顔の意味がわからん、と思いつつも眞清は男だったから「ああ」と頷く。
「眞清から」
 眞清を示して言えば、野里さん…涼さんが言葉なく、瞬いたのが見えた。
(…え、なんだこの間は…)
「…ちなみにドコで買ったの?」
 会長が眞清に、益美ちゃんと同じような問いかけをする。眞清は「ネットです」と、当然ながら同じ答えを返した。
「「「へぇ」」」
 三人がハモる。
(…なんだ?)
 思わず首を傾げるが…話題転換するように、野里さんが「ストラップ…そろそろヤバイんだよな」と呟いた。
「なんかいいのないか、涼」
「…なんであたしに振るのよ」
 にこにこしたまま野里さんが「ん? なんとなく」と続ける。
 野里さんに対してなのか、涼さんはため息をつく。
「…試験前に余計なこと考える余裕はないわ」
 続いた言葉に…『試験』という言葉にあたしは反応してしまった。
「…あ、そっか。涼さんはセンター試験? 受けるのか」
「えぇ」と頷いた涼さん。…そういえば、さっき会長も「涼さんと同じ大学」とかなんとか…野里さんに言ってたな、と思いだした。
「そろそろ?」と訊くと「来週の土日」という答えが返ってきた。
「あ…ほんともうすぐなんだな」
 来週の土日…と言ったら、益美ちゃん達と初詣に行く頃じゃん。
「応援してる」
 あたしはぐっと握り拳を作って、告げる。涼さんは少しばかり瞬いて、ふと笑った。
「…ありがとう」
 …やっぱ笑うとぐっと優しい印象になる涼さん。
 日頃がピシッと、委員長みたいな感じだから余計にそう思うんだろうか。
「涼先輩! あたしも応援しますから!!」
 祈るように軽く指を組んだ会長も続ける。
「おれも応援してっから」
 野里さんもそう言うと、涼さんは会長と野里さんとを、交互に眺める。
 そして涼さんはもう一度、笑った。優しく、柔らかな笑みで。
「ありがとう」
 涼さんの笑顔に野里さんもまた、笑う。――嬉しそうな笑顔で。
「…顔緩んでますよ」
 ポソリと会長が言った。
「お? おぉ? そうか?」
 会長のツッコミにも野里さんは動じない。
「まぁ、頑張るのは結局自分だけどね」
 涼さんの一言に「ま、そーだな」と応じて、野里さんはまた笑う。
「けど…ほら、なんか応援パワーがついてくるかもしれねぇし」
『応援パワー』に対してか、涼さんが「ナニソレ」とまた、少しばかり笑う。
 笑顔を浮かべた涼さんに、野里さんもまた笑う。
 …野里さんの涼さんを見つめる瞳はとても穏やかだった。

「なぁ、会長の好きな人って涼さんだったりするかな?」

 …会長と、野里さん…それから涼さんと雑談した後、文化系の部活でちょっと仲がいい…と、あたしは思っている…美術部の面々にも会長のことで話を聞いてみた。
 美術部の二年生の一人が会長と同じクラスで、ちょっとだけ話が聞けた。
 会長の『涼さん好き』は結構有名…というか、バレバレというか、らしい。
 美術部の面々に訊ねたことを、眞清にも言ってみる。

「…一度言ってみればどうでしょう?」
「…だな」
 眞清の言葉にあたしは頷く。
 眞清は何か考えるように瞬いていた…けれど、あたしは窓の外を眺めていて、気付かなかった。

※ ※ ※

「残念。不正解」
 会長にテストの答えを言ってみたら、ハズレ宣言をされてしまった。
『…会長の好きな人は、涼さん?』
 そう、言ってみたんだけど。

「ダイスキよ、涼先輩。…でも、今回の問題の意味では違う」
「…そっか」
 うぅーん、とあたしは唸る。
 眞清は今、いなかった。
 少し用事がある…とか言って、もし待ってるなら学生会室にいてくれ、とも言われた。
 一学期とか二学期…あたしが用事があった時、眞清は待っててくれた。
 だからあたしも、一応待つつもりでいる。
 学生会室には今はあたしと会長の二人しかいなかった。

 覗き見ると、結構副会長とか…役員なのかな? 名前を覚えてないけど、男がいたりとかすることが多かったんだけど。
 今日は、会長一人。
「そういえば会長、『本部』って取らないの?」
「え?」
 首を傾げた会長に「あれ」と入口の方を指先で示す。
 ドアの上…出入り口には『学生会室』というプレートがあるんだけど、その『室』の部分に紙に『本部』と書いて貼ってある。紙を張ったのは野里さんらしい。と、涼さんか冬哉さんに聞いた。
「あぁ…そういえば、そうね。まぁ、そのままつけとくんじゃない?」
「結構アバウトだな」
 思わず笑ってしまった。
 会長は「そう?」と言って、ケータイを机の上に置いた。
 なんとなく、会長が出したケータイを眺める。
「…?」
 なんか、見覚えがあった。
 …いや、ケータイって基本的な形が同じだから、そんなに奇抜ミョーなケータイなんて見たことないんだけど。

「あ」
 思わず声を上げる。
 いきなり声を出したあたしに会長が「え?」とちょっと驚いたみたいだった。
「あ…わり、驚かせるつもりはなかったんだけど」
 あたしは謝ってから、問いかける。
「会長のケータイって、野里さんと同じヤツ?」
「…え?」
「違う? なんか、よく似てるなって思ったんだけど」
 野里さんと番号を交換した時に見たケータイ。
 折り畳み式で先端部分が黒、開閉するつがい部分が赤…の二色のケータイだった。
 会長のケータイはシルバーとピンク…という女の子らしい色合いだけど、二色っていうのと、外側のほぼ正方形な液晶のカンジとかが似ている気がした。
 色違いかな? とか思ったんだけど。
 あたしの問いかけに「さぁ…」と会長は瞬いた。「とりあえず」と言葉を続ける。
「ストラップは涼先輩とお揃いだよ」
「あ、そうなんだ」
 そう言われれば…と涼さんのケータイ…ストラップを思い起こしてみる。
 刺繍糸とは違うかもしれないけど…糸を縛って、飾り紐みたいなヤツだ。
 チャイナ風というか…なんか、アジアンテイストなカンジ。
 会長のストラップを観察しつつ、涼さんのストラップも確かにこんな感じのだったかも、と思った。
「ってか、コレ涼先輩の手作りなんだ」
 そう続けて、嬉しそうに会長が笑う。
 会長の言葉を自分の中で繰り返して、「え、手作り?!」と声を上げてしまった。
 驚いたあたしに「うん」と会長は頷いて、続ける。
「涼先輩のストラップ可愛いですねー、とか言ったら「作ったヤツなの」って言ってさ。…更には作ってもらっちゃった♪」
 会長はそう言って、嬉しそうに笑った。
 …本当に好きなんだな、涼さんのこと。
 会長からのテストとして…『会長の好きな人』とは違うらしいけど。

「失礼します」
 その声にあたしは振り返り、会長も顔を上げた。
 声から判断した通り、ドアを開けたのは眞清だった。
「お、眞清」
 あたしが手を上げると眞清は少しばかり目を細めた。「いたんですね」という声が聞こえて「おう」と頷く。
「…当たってましたか?」
 続いた問いかけに「ハズレ」と応じたのは会長だった。
「残念。涼先輩はダイスキだけどね。今回の問題の答えとしては、違うよ」
 にっこりと会長が笑った。
 眞清があたしの斜め後ろに立つ。
「帰るか?」と声をかけようとして顔を上げたら、眞清が口を開いた。

「…じゃあ、野里先輩ですか?」

「――へ?」
 あたしは思わず妙な声を上げてしまった。
 何のネタなのか分からなくて。
「…え?」
 ソレは会長も同様だったのか、ちょっと目を丸くして眞清に聞き返す。
 眞清は視線を会長に向けたまま、続けた。
「今回、隣の部屋を使わせてもらうのにあたって出題された問題テストの答え…」
 誤魔化されない、と言わんばかりに眞清は丁寧に前置きをする。
「『会長の好きな人』というのは野里亮太先輩ですか?」
 眞清はそう、会長へと問いかけた。

 
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