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⑤お助け隊
<会長命令>

「大森さん、蘇我君、ちょっといい?」
「はい?」
 ――眞清が会長からのテスト…問題に正解した翌日。
 放課後、早速学生会室――今も『本部』の紙は貼られたまま――の隣で過ごしているとそんな風に会長に呼ばれた。
 前の会長…冬哉さんの時もたまに呼ばれて、何かしら手伝ったりしたから、またそういう感じで何かを手伝うのかと思った。
 あたしが立ち上がり、眞清も続く。
 昨日貼った『会議中!!』の張り紙が付いたままのドアを開け「ナニ?」と学生会室に顔を出すと、結構人口密度が高かった。
 冬哉さん達の時は冬哉さん、涼さん、野里さん…たまに春那ちゃん、と大体三人、四人だったんだけど、今は九人いた。
 座ってるヤツもいるけど、立ってるヤツのが多い。その所為でよけいに人口密度が高い感じがするのかな?
 パッと見、会長と副会長…の一人…以外全員男だった。
 会長に「ちょっといい?」と繰り返されて、頷く。
 眞清がドアを閉めると、座っていた会長が立ち上がってあたしの傍に並んだ。
 学生会室にいる面々を示す。
「コイツ等、実は委員長とかじゃないんだけど」
「コイツ等って…扱い酷くないか?」
 会長の一言に男の副会長…確か梶原…が苦笑を洩らす。
 副会長に対して「気のせい」とバッサリ切り返して、会長は続けた。
「ちょっとした計画に役立ってもらおうと思ってて」
 会長の『計画』の言葉を疑問に思った所為か、「…はぁ…?」とため息みたいになってしまいながら頷いた。ふと会長が笑って、続ける。
「で、大森さん達にもその『計画』に便乗してもらいたいな、ってね」
「…え」
 あたしは思わず声を上げる。眞清が小さく「面倒事ですか…?」と呟いたのが聞こえた。
「隣を使わせる代金? みたいなモノよ。交換条件」
 眞清の声が聞こえていたのか…ちょっと判断できないが、会長は続ける。
「とりあえず、ハナシ聞いてくれない?」
 会長の口調は…疑問形だったけど、拒否権はない感じだった。

「……お助け隊?」

 会長の話を聞いた後、あたしは思わず繰り返した。
 コックリと首を縦に振る会長。
 あたしはポリポリと軽く頭を掻く。

 学生会が設置した『意見箱』というものがある。
 それは前からある箱で、そこに――例えば『部室が欲しい』とか――投書すればちょっとした問題解決の一手を学生会が打つ…というのが意見箱の意義だ。
「学生会が表立って動く前に、事前調査とか…第三者として、確認する人が欲しいのよ」
「一応委員会でもやるのでは?」
 眞清の問いかけに会長はあっさり「やるけどね」と頷いた。
「…あたしが重点を置きたいのは違う部分なの」
「違う部分?」
 あたしが問いかえすと会長はニッと笑う。…イタズラを思いついた! みたいな表情だ。
「個人的な相談に応じて欲しいの」
「個人的な相談???」
 あたしは思わず会長の言葉を繰り返してしまう。
「前からあったらしいんだけど…意見箱に個人的な相談が入ってたこともあるらしいのよ」
「え、そうなの?」
 結構、隣の部屋で過ごすことをあったけど…そんなことは知らなかった。
 会長は頷いて「涼先輩に訊いてみればわかると思うけど」とも呟いた。
「どうせならソッチも手助け出来たらな、って思ってさ」
 その「個人的な相談」を受け持つ役割を担ってくれないか、と会長は言った。
「――案外…友達より知らない人間のほうが相談しやすい場合もあるしね」
 ポソリと漏らした呟きに思わず「え?」と聞き返したが「ん?」と会長は首を傾げる。
『――案外…友達より知らない人間のほうが相談しやすい場合もあるしね』
 聞こえた内容を自分の中で繰り返して、瞬く。

 あたしは少しばかり考えて、問いかけた。
「…チョクチョクあるの?」
 …聞こえた内容ではないことを。
「そんなにないと思うわ」
 ぱっと両手を広げる会長。
 そのまま右手で学生会室にいる面々を示す。
「それを、コイツ等と一緒に手伝ってくれない?」
「口の堅さは信用できるから」と会長は笑う。
 笑顔の会長と、学生会室の面々とを交互に見た。
「…女の子がいないんだな」
「女の子を信用してないってわけじゃないんだけどね」
 会長はそう言うと一つ、息を吐き出した。
「あたし、なんか怖がられちゃってるらしくって。女友達少ないのよね」
 ややため息交じりに応じた会長の言葉を意外に思った。…はきはきしてて、スゴイ友達になりやすそうなのに。
「お前オトコだと思われてんじゃねぇの?」
「なんか言ったか梶原」
 ビシリと会長が言い放つ。
 …けど、会長はどう見ても女の子だ。今日なんかもスカート履いてるし。
 顔立ちはもしかしたらキツイほうなのかもしれないけど…あたしとしてはそんなに「コワイ」とも思わないし…うぅーん、やっぱり意外だ。
 一人そんなことを考えていると、会長は「と…まぁ、そういうワケなんだけど」とあたしと眞清の方を見た。
「お願いできないかな?」
 最初に隣を使わせてもらう交換条件と言っていたから、あたしは別にやってもいい…と思っていた。
 冬哉さん達の手伝いもしたこともあったから、『手伝う』って意味じゃ似たようなものだろう…とも思う。
 あたしは隣の眞清をなんとなく眺めると、目が合った。
 眞清があたしから視線を外して、会長へと視線を移した。
「拒否権は」
 眞清の端的な問いかけに会長は瞬く。
「ぶっちゃけないけど」
 あっさり答えた会長に「そうですか」と眞清は呟く。
「拒否権ないならやるしかないじゃん」
 会長のあっさり、きっぱりした物言いにあたしはちょっと笑う。
「やー…どうせなら無理矢理やらせるんじゃなくて、自主的にやってもらったほうがいいじゃない?」
「…拒否権がないならあまり変わりないのでは…」
「細かいこと気にしちゃダメよ」
 会長は眞清にピシリと言い放つ。
 会長にやられてるカンジの眞清の様子に思わずまた笑ってしまった。眞清の「笑うところですか」という小さな声が聞こえたが、あたしは聞こえないふりをする。
「手伝うよ。なんかあったら、言って」
 あたしがそう言うと「そうこなくっちゃ」と会長はニッと笑った。
「一応手助け要員ね」
 会長は再び学生会室の面々を示した。
「自己紹介は…まぁ、その内勝手にやって」
「投げやりだな」
 会長が示したウチの一人…なんか運動部に入ってそうな体が大きめなヤツが苦笑した。
「別に委員会とかじゃないもの。必要があったら適当にやりあえばいいじゃない」
 そんな苦笑にも会長はあっさりと応じる。
「二人は一年だからあたしが紹介するわ。右側が大森さん、左側が蘇我君」
 続けて、流れるように紹介された。
 あたしは一応「ヨロシク」と手を上げる。「…どうも」と眞清がちょっと間を置いて頭を下げた。
「隣だけど…一応使う前に顔出してくれる? 誰もいなくても使っていいけど」
「あ、うん」
 会長の言葉にあたしは頷く。眞清も頷くと「急に呼んで悪かったわね」と、ひとまずその場は解散となった。

 それからしばらくあたしと眞清は学生会室の隣で時間を過ごして…その間も、学生会室では何か話し合っているような雰囲気だった…電車の時間に合わせて学生会室の隣…秘密基地を後にする。
 前…冬哉さん達から了承を得ている時から、一応秘密基地を出る時も顔を出すようにしていて、その調子で学生会室に顔を出したら人が減っていた。
 会長と副会長の二人はいたから、『お助け隊』のメンバーが何人か帰ったらしい。
「お先に」と声をかけると会長がひらひらと手を振った。男の副会長…梶原さんも「おう」と頷く。
 学校を出て駅に向かうと電車がくるまであと二分くらいで、ホームに立って待っていた。
 一月。…まだ冬だ。吹く風が冷たい。誕生日に貰った帽子とマフラーをつけているから、我慢できないほどではないが。
「見覚えのあるヤツいたか?」
 電車を待ちつつ、学生会室にいた面々を脳裏に描きながら眞清に問いかけるとしばらくの間があった。
「…名前がわかる人はいませんでしたね。顔を見たことはある気もしましたが…」
 それはあたしもだった。「だよなぁ」と頷くと「ただ」と眞清は続ける。
「同じ学校の生徒なので、顔を見たことがある…くらいは当然かもしれませんね」
「…それもそうか」
 結構学年毎のクラス数が多い豊里高校。
 当然学生の数も多いが…まぁ、すれ違うくらいはしている可能性だってある。
 もし部活をやってる人だったりすれば、その様子を見たりもしていたかもしれない。『誰』という認識はしなくても。
「ま、必要があればお呼びがかかるだろ」
「…お呼びがなくても僕は一向に構いませんが…」
 それに『お助け隊』っていうネーミングセンスもなんとも。
 ボソリとした眞清の呟きに「やる気ねぇな」と、思わず笑う。
「ありませんよ」と妙にキッパリ言われて、また笑えた。

 
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