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⑦贈りものの行方
<贈ったもの>

 バレンタインの翌日。
 昨日のさわさわした空気の余韻がなんとなく、まだ残っているような気がした。
 気のせいかもしれない。
 そういえば、あたしが貰ったバレンタインチョコは美術部の部長、アサエちゃんとつばきちゃんからだった。
 ある意味、眞清が貰った相手と一緒だった。
 入っていたメッセージカードに、正直かなり安心してしまった。
 アサエちゃんはモデル引き受けてくれてありがとう、ということ。
 バレンタイン昨日は大学関連で用事があって渡せなさそうだから、靴箱に入れさせてもらった、と書いてあった。一昨日のあたしが帰った後か、昨日あたしが学校に来る前に入れておいてくれたらしい。
 机に入っていたのは、つばきちゃんからだった。
 すごく今更になってしまうけど、あの日はありがとう。と礼が書いてあった。
『あの日』と書いてあっただけで、詳しくは書いてなかったけど、『あの日』がいつを示しているかわかった。
 眞清もアサエちゃんとつばきちゃんから貰ったようなことを言っていた。
 …そういえば、『お礼で貰ったモノだったから、付き合うとかそういう意味合いじゃなかった』と眞清が言っていたことも思いだす。
 あたしにも眞清にも同等に、二人ともチョコをくれたらしい。
 貰ったチョコは少しずつ、オヤツで抓んで食べさせてもらった。
 ちなみに益美ちゃんに相手は「女の子だよ」と報告した。
 名前は、ナイショにしてみた。
「…マジ告白?」
 小さな声で聞き返されて、「いいや」と否定する。
「友チョコなら相手教えてくれてもいいじゃん」と言われたけど「ナイショ」とはぐらかせてみた。
 …まぁ、言ってもよかったかもしれないけど。
(アサエちゃんはともかく…つばきちゃんに関しては説明が難しいしなぁ)
 一学期にあった『事件こと』も説明しなきゃいけなくなってしまう。
 益美ちゃんは眞清にも「誰だった?」って突っ込んでいたけど、いつもの胡散臭い笑顔で誤魔化していた。
「黙秘権、ということで」
 …眞清は、使う言葉が難しい。

※ ※ ※

 一週間が経って、二週間が過ぎて…期末テストが終わって、二月も終わった。
 結局、弥生ちゃんが眞清に何をあげたのか知らないまま今になっている。
 …まぁ、突っ込むところでもないか。
 ただ、パッと見眞清の持ち物で増えたモノとかはわからなかった。
 …あたしが贈った栞とシャーペン、それから消しゴムを使ってくれているのは、見る。
 三月に入って…眞清の誕生日からもう一ヶ月経つんだな、なんてことを思って、ふと問いかけた。
 今も、訊けてなかったことを。
「それ、気に入った?」
 朝…まだ人があんま居ない教室で、本を読んでる眞清の邪魔をして、問いかけた。
 机に置いてある栞を手にする。
 少し硬い素材の、細長くて鳥の羽根みたいなイメージのデザイン。渋い…というか少し褪せたというか、なんにせよ金と銀の間みたいな色。
 持ちあげて、観察する。あたしはデザインがカッコイイな、と思ってそれにしてみたけど。
「はい。ありがとうございます。重宝してますよ」
『ちょうほう』が分からず、「ちょーほー?」と聞き返す。
「…えぇと…便利、ですか」
 眞清はパラパラと本のページを進める。
「栞がない本もありますから…」
 続いた言葉に「ふぅん」と言いつつ、あたしは持ちあげていた栞を机に戻した。
「なら、よかった」
 意識せず笑ってしまう。
 ペンケースに入っているはずのパッと見「鉛筆?」とか思えそうな色合いの木目チックのシャーペン。
 なんとなく眞清のイメージだと思ったのと…個人的に握りやすかったっていうのもあって、贈った。
 それについても訊ねると「握りやすいです」と応じる。
「そぉか」
 やっぱ、使ってもらえるのは嬉しい。
 …気に入ってもらえたんだったら、更に嬉しい。
「――克己は」
「ん?」
 眞清の切り返しにあたしは首を傾げた。
 眞清は言葉を続ける。
「…それは、気に入りましたか?」
 それ、と言いつつ示されるのは…ストラップ。
 眞清が誕生日にくれたモノだ。
 ケータイを持ちあげて、「おう」と頷く。シャリッと軽く、ビーズ同士が当たる音がした。
 手にしたストラップとケータイを見下ろす。
「好きだ、この色合い」
 眞清がゆるゆると瞬いたのが視界の隅で映った。
 顔を上げて、続ける。
「ありがとな、眞清」
 礼を言うと眞清が僅かに目を伏せた。「いえ」と呟きながら、視線をあたしへと戻す。
「気に入ってもらえたなら、よかったです」
 そう言いながら、眞清は少しだけ笑った。
 いつも笑っている印象の口元を…笑みを、深めた。
「お、はよう蘇我くん」
「おはようございます」
 名指しに眞清は視線を向けた。…弥生ちゃんだ。
「大森さんも、オハヨ」
「おはよう」
 今日も弥生ちゃんと絵美ちゃんは仲良しだ。
 あたしは二人が席に着くのを見る。二人の席は隣同士だ。
 眞清は本に視線を落としていた。

 
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